2013年5月1日水曜日

「あと一人」、完全試合を逃した人々のストーリー[野球]


あと、たった一人だったのに…。

今季初登板のダルビッシュ有(テキサス・レンジャーズ)、「あと一人」というところで「完全試合」が股の下をスリ抜けていった。



9回2死までに、14の三振を積み上げていたダルビッシュ有。ところが「あと一人」の9番マーウィン・ゴンザレス。

「彼の打った初球は、ダルビッシュ有の差し出したグラブの5cmほど下をすり抜け、センター前へと抜けていった(Number誌)」

その瞬間、ダルビッシュの大リーグ完全試合という快挙は夢と消えた…。




試合後、ダルビッシュは呟いた(Twitter)。

「あと一人て。。なんでやねん!」







アメリカ大リーグ史上、完全試合を達成した投手は、これまで23人。そして今回のダルビッシュのように、9回2アウトから完全試合を「あと一人」で逃した投手は、11人(ダルビッシュ含む)。

「確率的の面から見れば、我々が目撃したダルビッシュの快投は、完全試合以上に珍しいものだったわけだ(Number誌)」



しかし、皮肉か幸運か、完全試合をあと一人で逃した物語の方が、後の世に語り継がれることが多い。

「あと一人で完全試合を逃した人々を巡るストーリーは、学ぶべき教訓と、当事者の人間性が、ありのままに現れる、奥深い逸話に満ちている(Number誌)」



2010年、ベネズエラ人投手「アーマンド・ガララーガ(タイガース)」も、その惜しい一人。

9回2死、あと一人、27人目のバッターは「一塁ゴロ」に打ちとったはずだった。投げたガララーガは一塁のベースカバーに入り、自分の足で一塁ベースを踏み、完全試合を成し遂げたはずだった。

ところが…、塁審ジョイスの判定は、まさかの「セーフ」。この瞬間、ガララーガの完全試合は消えた…。



さあ、物語はここからだ。

試合後、審判の控え室に戻った塁審ジョイス。

「ビデオを確認したジョイスは『誤審』に気がついた(Number誌)」



嗚呼…、じつはアウトだったのだ。

ガララーガは完全試合を成し遂げていたのだ…。

それを、塁審である自分はセーフと「誤審」してしまった…。22年も大リーグで審判をしてきたというのに…。



「ガララーガに会いたい」

塁審ジョイスは、タイガースのGM(ジェネラル・マネージャー)にそう伝えた。

「ガララーガ本人が訪ねてくると、ジョイスは誤審を認め、涙ながらに英語とスペイン語の両方で謝罪した(Number誌)」



謝罪を受けたガララーガは、ここに名言を吐く。

「完全な人間なんていないさ(Nobody's perfect)」

きっと誤審を認めたジョセフの方が、辛い想いをしているはずだと、ガララーガは気を遣ったのだった。自身も完全試合を逃した直後だったというのに…!



翌日、ガララーガのこの一言は、大々的に報道された。

「率直に誤ちを認めたベテラン審判。その審判を気遣ったガララーガ。誤審の場面がテレビで放送され、審判への批判が爆発していたデトロイトにおいても、2人の見せた態度が報道されると、批判ムードから一転、賞賛の拍手に変わった(Number誌)」







日本球界にも、あと一人(9回2死)から完全試合を逃した人物が4人いる。

最も記憶に新しいのは去年(2012)、楽天戦を投げた「杉内俊哉(巨人)」。



26人目までは13奪三振のパーフェクト。迎えた27人目は代打・中島俊哉。

4球投げてフルカウントまで追い込んだ杉内に、東京ドームが割れんばかりの凄まじい歓声が巻き起こった。

「歓声がすごくて、プレッシャーになった」と、のちの杉内は笑う。



5球目、高めに浮いた速球は「明らかに力が入り過ぎていた」。

そして運命の6球目。確実にストライク・ゾーンで勝負すると思われた杉内のボールは「内角低め」。判定はボール。

「四球を出して、完全試合は消えた(Number誌)」



なぜ、真ん中を投げなかったのか?

この問いに、杉内はこう答えた。

「勝つことが重要。真ん中を狙って投げるというのは、僕にはできなかった」



試合は2−0で勝っていたものの、もし長打を一本浴びれば、勝敗が分からなくなる試合だった。

杉内は、個人の完全試合よりも、チームの一勝に重きを置いたのであった。







「2位なんて、誰も覚えてないよ」

この言葉は、スポーツの世界ではよく耳にするものだ。

だが、完全試合に関しては明らかに違う。大記録を達成した投手たちと同様、いやそれ以上に、ファンの心には「あと一人」の惜しすぎる記憶が刻み込まれるのだ。



「何事であれ、人間はしばしば完全(perfect)を目指して取り組む」

しかし、ガララーガが言うように

「完全な人間なんていない(Nobody's perfect)」

だからだろうか、我々が「あと一人」に泣いた投手を称えずにはいられないのは…!



(了)






関連記事:

世界トップ級の一人「安楽智大」。春のセンバツ

「まずチーム」。稲葉篤紀(日本ハム)の犠打

なぜか人が押したくなる背中。山本昌(プロ野球)





ソース:Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2013年 5/9号 [雑誌]
「27人目に泣いたダルビシュと14人の男たち」

0 件のコメント:

コメントを投稿