テニス・プレーヤー「松岡修造(まつおか・しゅうぞう)」、当時21歳。
プロに転向してから3年目、世界ランクも着実に上昇し、「さあ、これから」という矢先、両膝の半月板を損傷し、手術をすることになってしまう。
「どうして僕だけが、こんな酷い目に遭うんだ…」
松岡は被害妄想に陥っていた。
そこに現れた一人の少女。松岡の大ファンだという彼女は、同じ病院に入院していた。
「私の分まで、カンバってください!」と少女は満面の笑みで、落ち込んでいた松岡を励ました。
少女の気持ちをもらって元気の出た松岡。「よっしゃ! きみの分も頑張る! ありがとう!」
しばらくしてから、松岡のもとには「少女の死」が知らせられる。
白血病だった彼女は、余命が2週間しかなかった…。
松岡は恥じた。自分の不甲斐なさを。
膝の怪我ごときで滅入ってしまっていた自分を。
あの少女は命の火が消えかかってなお、そんな自分を励ましてくれていたのだ…!
「あの少女との出会いは、僕にとって大きなものでした」と、のちの松岡は語る。
哲学者・森信三は、こんな言葉を残している。
「人は一生のうち、出会うべき人に必ず出会える。しかも、一瞬遅すぎず、一瞬早すぎず」
「なぜ少女と出会えたのか。それは僕が求めていたからだと思うんです」と松岡。
森信三いわく、「内に求める心なくんば、ついにその縁は生じざるべし」。
少女との出会いから、松岡は変わった。
「挫折」というものの考え方が変わった。
「挫折を敗北ととらえ、もう終わりだ、と受け止めることが多いと思うんですが、そうじゃない人もいるんです」と松岡は言う。
実際、一度も挫折することなく、世界の頂点に立ったアスリートなど皆無である。
ウィンブルドンでベスト8入りを果たすことになる松岡修造にしても、レスリングの吉田沙保里にしても、水泳の北島康介にしても…。
「挫折するのは、目標がしっかりしている証拠です。どうでもいいやと取り組んだことに挫折する人はいませんから」と松岡は言う。
どうやら、トップアスリートたちは「挫折」や「敗北」の捉え方が、他の人たちと異なるようである。
「挫折を好きになれば、きっと前を向いていけるはずなんです」
それは情熱か、根性論か?
「いや、テクニックです」と彼は言う。「なんでも前向きに捉えられる人など滅多にいませんから」
(了)
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ソース:Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2013年 5/9号 [雑誌]
「熱血スポーツキャスターが説く”挫折”との付き合い方」
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