「二刀流」とは?
バッターとしては「開幕スタメン」
ピッチャーとしては「一軍での先発」
これが、稀代のルーキー「大谷翔平(おおたに・しょうへい)」に示された道標だった。
日本ハムの指揮官・栗山監督は本気だ。「翔平にとっては、『ホントに両方やっていいの?』なんていうのは、要らない疑問だ」
だが、「球界の常識」ばかりは黙っちゃいない。
「プロで二刀流なんて、どだい無理だ。甲子園じゃあるまいし…」
「どっちつかずの中途半端で終わるに決まってる」
「まず、ケガをする」
その逆風たるや、凄まじい。
その矢面に、栗山監督は立つ。
「若者が大志を抱いて、覚悟を決めて、誰一人として分け入ろうとしなかった『道なき道』を進もうとしてるんだ。それを邪魔しないでほしい」
日本ハムの本拠地・北海道は、「少年よ大志を抱け」のクラーク博士のお膝元である。
監督が宣言した通り、高卒ルーキー大谷翔平は、開幕戦から一軍の打席に立っていた。だが、まだピッチャーではなかった。さすがに、投手は段階を踏む必要があった。
「翔平は一軍の選手。それだけのオーラもある」
その監督の期待に応えた大谷翔平、開幕戦でタイムリーを含む2本のヒットを放ち、早々に「一刀目」の結果を出してみせた。
「二刀目」のピッチャーとしての先発はイースタンリーグ。二軍戦である。
ところが、大志ばかりが先行したか、コントロールが定まらない。牽制球は悪投、ベースカバーは遅れる、抜け玉は目立つ…。
「ゲームメイクをするという総合力という点においては、未熟さを晒してしまった。だが、当たり前のように150kmを叩き出す豪速球ストレートは、高卒ルーキーの域をはるかに超えていた(Number誌)」
ところが…、大谷は「ケガ」をしてしまう。
バッファローズ戦、2回裏。ライトを守っていた大谷は、ライン際へのフライを追っていた(ここは神戸、ファウル・ゾーンが極端に狭い。ファウル・ラインをまたぐと、すぐにフェンスがある)。
「ボールを追ううち、思ったよりも早くフェンスが視界に入って来たのだろう。急停止しようと両腕でフェンスを押し返そうとした大谷だったが、その際、ブレーキをかけようとした右足が土の上で滑ってフェンスの下に潜り込み、ぶつかってしまった。そこで、右足首を捻挫したのである(Number誌)」
高校時代から、大谷は捻挫をしやすかった。人よりも関節の柔らかい大谷は、捻挫のリスクが高く、しかもまだ、18歳の大谷は成長の真っ只中にもあるようだった。
「そら見たことか!」
二刀流否定派たちは、ここぞとばかりに大合唱。大谷のケガを囃し立てる。
「無茶を押しつけて、10年に一人の逸材を潰す気か!」
そんな逆風が強まるなかでも、栗山監督は落ち着いていた。
「もともと一軍でプレーしている以上、ケガは想定内」
それでも内心、彼にも不安がないわけではない。
「自分でも時々、野球人としての常識が顔を出して、本当に両方やらせて大丈夫なのかって、せめぎ合っているわけよ」
そんな弱気になりそうな栗山監督を、ミスター(長嶋茂雄)は笑い飛ばしたという。
「何を言ってるんですか。あんな選手、野球界には80年間、一人もいなかったじゃない」
そう言って、長嶋さんはあの甲高い声で笑っていたのだとか。
そんな言葉に力を得て、栗山監督は「野球界の常識に囚われないこと」、そして「先入観を消すこと」を再び肝に命じる。
大谷翔平本人も、同じ気持ちだ。こんなことを言っている。
「好きな言葉は『先入観は可能を不可能にする』という言葉です。自分で決めつけるのはイヤだし、できないと思ったら終わりだと思います」
10年に一人のピッチャー
10年に一人のバッター
それぞれどちらかならば、過去にもいた。だが、「投打とも一流の二刀流は、過去に一人もいない(Number誌)」
もし、大谷がその二刀を兼ね備えるのならば、100年に一人の異才ということになる。
道なき道は、まだ先が見えない。
それでも、その道を歩みはじめた若者がいる。
エースで4番、そんな日がきっと、来るのかもしれない…!
(了)
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ソース:Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2013年 5/23号 [雑誌]
「100年に一度の道なき挑戦 大谷翔平」
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