2014年6月11日水曜日

想像する以上の4年間 [長友佑都]




「ナガトモ専用の坂道」

それが、イタリアの名門クラブ「インテル」の練習場にはある。

長友佑都(ながとも・ゆうと)がお願いして、チームに造ってもらったのだという。



チームの練習が終わったあと、長友は一人、その坂道でダッシュを繰り返す。

「ブラジルW杯っていうのは『どれだけ相手よりも走れるか』だと思うんですよね」

長友はひたすらダッシュを繰り返す。

「とくに強豪相手に勝っていくためには、僕たち一人一人が『相手選手よりも走る』ということに本当にこだわっていかないと、やっぱり結果は出ないと思うんです」








長友にとってブラジル大会は、自身2度目のW杯となる。

4年前の南アフリカ、初めてのW杯で彼の人生は劇的に変わった。



初戦のカメルーン、長友は相手のエース、サミュエル・エトーに執拗に食らいつき、その仕事を封じ込めた。以後、4試合にすべてフル出場。世界の大舞台で大きく株を上げた。

そして帰国後、イタリア・セリエAへの移籍をつかみとり、チェゼーナ、インテルと着実にステップアップしていった。



現在所属する名門インテルでは、不動のレギュラーの座に収まっている。めまぐるしく監督が代わろうと、メディアに激しくバッシングされようと、長友の座は揺らがなかった。

そして今季、ディフェンダーでありながら攻撃参加を求められた長友は、チームの期待以上の成績を記録する。5ゴール7アシスト。チームメイトからの信頼も厚く、キャプテンマークを巻くまでになった。

元イタリア代表のパオロ・マルディーニは言う。「今季のナガトモは『成長』という言葉を象徴するようなプレーを見せていた。じつに上手くなったよ。持ち味である持久力が際立っている」





「4年あれば、人って自分が想像する以上のところに行けると思うんですよ」

4年前、自身初のW杯を終えたあと、長友はそう言っていた。



確かに、南アフリカW杯の4年前、長友はまだ明大サッカー部の一員にすぎなかった。椎間板ヘルニアを発症して、スタンドの応援席で太鼓を叩いていた。

その4年後に日本代表としてW杯に出場するなど、誰が想像できたであろうか。

ましてや、名門インテルで不動のレギュラーの座にいようとは。



長友はずっと言ってきた。

「世界一のサイドバックになる」と。

その野望を笑う者は、もういない。






「いま、この階段を登りたいと思ったら、すぐに登らないと」

長友はずっとそうやって、階段を上りつづけてきた。

「正直、南アフリカW杯から4年間は、このブラジルのためにやってきました。練習中もそうだし、お風呂に入っている時も、ご飯を食べている時、読書している時もW杯のことが無意識的に出てきて…。そのぐらい強く、W杯のことを思ってきました」

その思いは、言葉では表現できないほど大きいという。

「南アフリカの時は、どんな大会になるんだろうって硬くなっていました。でも今はそうじゃなくて、ワクワクして大会が早く来てほしいなって思うんですよね。日本のチーム、自分の実力を思う存分、出せるっていう自信がありますから」



日本代表での長友は

「攻撃のスイッチを入れてくれ」とザッケローニ監督から言われているという。

誰にも負けない豊富な運動量で、攻めに守りに左サイドを全速力で往復しつづける長友。ディフェンダーでありながら、前のラインを突き抜けるほど積極的な攻撃参加を見せている。

パオロ・マルディーニ(元イタリア代表)は言う。「ナガトモのいる左サイドが、ザッケローニ監督の意図するサッカーで重要な鍵をにぎることになるだろうね」






長友は「W杯優勝」と口にしてきた。

その志は一切ぶれていない。

「自分の心がぶれるっていうのが、一番嫌いなことなんで」



そして今、世界トップクラスのスピードをスタミナを長友は手に入れている。

「僕自身、この一年で凄く成長した部分があって、正直、1対1でも止められる気はしません」

待ちに待ったW杯が、自分にとって最高のタイミングで訪れようとしている。





「W杯で僕は、主役になりたいなって思ってるんで。やっぱり世界で語り継がれる選手になっていきたい」

長友はそう言うと、白い歯をこぼす。

「自分たちがやりたいサッカーっていうのが出来たとき、その気持ち良さっていうのは、もう何にも代えられない。その満足感、やっぱり得たいですよね」













(了)






出典:Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2014年 7/17号 [雑誌]
長友佑都「1対1では負ける気がしない」



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