2014年6月15日日曜日
謙虚なMVP、デュラント [NBA]
「もう2番は、うんざりだ」
デュラントは言った。
高校や大学でも2番。
NBAドラフトでも2位指名。
MVP投票でも2年連続で2位に終わっていた。
「今までの人生で、人から与えられたものは何もなかった。いつも自分の力で勝ち獲らなければならなかった」
NBAに入ったときは18歳だったデュラントも、今や20代も半ば。「トップ宣言」をするには好い頃合いだった。とはいえ、それはデュラントらしくなかった。いつもの彼は飾らぬ自然体であり、必要以上に自分を大きく見せることを好まなかった。
しかし昨季、NBAファイナルで敗れて優勝を逃したことで、謙虚な彼にも少なからぬ心境の変化があったのかもしれない。
「今年はプレーするときに、はじめてバスケットボールを一番にしなかった」
デュラントは意外なことを言った。
「それよりも、いい人であろうとしたんだ」
確かに、今季のデュラントは自分でシュートを打てる場面でも、チームメイトにパスを出すことが多かった。より良いポジションにいる選手を優先するようにしていたのだという。
「よりいいチームメイトであろう、よりいいリーダーであろうとしたんだ」
その献身的な姿勢が思わぬ効果を生んだ。デュラント自身の得点も増えたのだ。
——最初の試合で34点をあげたのを皮切りに、その後18試合中16試合で30点以上をあげた。その中には12試合連続30点以上や、自己最高の54得点もあった。アシストも平均5.9本出していた。それだけ効率の良いオフェンスで、チームを勝利に導いていたのだ(Number誌)。
ウエスト・カンファレンス準決勝
オクラホマ・シティ・サンダー vs クリッパーズ
勝ったチームがシリーズに大手をかける大事な試合で、デュラントのチームは2点負けていた。
その残り6.4秒で、仲間のラッセル・ウェストブルックに3本のフリースローが与えられた。最後の最後、逆転のチャンスだった。
そのとき、デュラントは意外な行動にでた。
——ウェストブルックがフリースローを打とうとしていたサイドから遠ざかり、彼に背を向け、反対側のエンドライン近くの床にペタっと座り込んだ。
しばらくフロアを見つめていたデュラントは、ファンの大声援を聞いて、フリースローが決まったことを知った。
なぜ、仲間のフリースローに背中を向けたのか。
デュラントは言う、「チームメイトを信頼できなかったわけじゃない。僕が見ると、いつも不運を呼びこんでしまう。希望と反対の結果になってしまうんだ。だから後ろを向いていた」
まったく彼らしい、仲間を気遣った謙虚な弁であった。
今季のMVPはデュラントの手にわたった。
ついに彼は1番になった。
受賞スピーチ中、彼は何度も言葉をつまらせた。
「なんで、こんなに涙がでるんだろう…」
デュラントは子供のころを振り返った。
「はじめて体育館に入った瞬間から、バスケットボールが大好きになったんだ。それは仲間たちがいたからだ…。僕自身が自分を信じていなかったときにも、多くの人が僕を信じてくれた…。仲間たちに励まされ、何度も倒れては起き上がり、ここまでやってこれた…」
デュラントは、神をはじめ、あらゆる人々へ丁寧に感謝した。
受賞後、チームスタッフは祝福した。
「君にとって初めてのMVPだね」
デュラントは微笑んで、こう訂正した。
「”僕ら”のMVPだ」
(了)
ソース:Number誌
ケビン・デュラント「初MVPは涙とともに」
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