2014年6月7日土曜日
進化を呼びこむ「悪い波」 [長谷部誠]
「わき腹の、ちょっと上の皮膚の動きが悪い」
トレーナーは、長谷部誠(はせべ・まこと)にそう指摘した。
そこの皮膚が固まると、横への動きが鈍るのだそうだ。
長谷部は言う。「実際、その部位の柔軟性アップに取り組んだら、横の動きが軽くなりました。服を脱いだときに、わき腹がシュッと引き締まったのを実感します」
体つきと動きが変わった。怪我をする前よりもパワーアップしていた。期待以上の成果である。じつは彼は今年1月、スペイン合宿の練習試合で右ヒザの半月板を損傷。手術を余儀なくされた。しかし回復が思わしくなく、2月には再手術を受けていた。
「自分の中に『戻る』という意識はありませんでした。怪我をする前よりも必ずパワーアップしようと思っていました」
長谷部は言う。
「悪い波がきても慌てず、逆にそれを利用する」
それは前回、南アフリカW杯で実感したことでもあった。
「直前まで悪い波がきていたかもしれないけど、そういう時のほうが開き直れるものです。チーム全員が一つになって、ビッグウェーブを起こすことができました」
結果はベスト16という、過去最高のものだった。
長谷部は言う。「悪いときは、大きく変わるチャンスでもあります。反対に、悪い波が小さすぎると大きく変わるキッカケを得るのが難しくなります」
南アW杯後に結成されたザックジャパンはこの点、「あまりにもチーム作りが順調に進みすぎて、悪いときの波が小さすぎた」と長谷部。
だが、昨年のコンフェデレーションズ杯、ザックジャパンは「悪い波」に大きく呑み込まれた。3戦全敗。予選リーグで消え去った。
長谷部は振り返る。「昨年のコンフェデ杯から東欧遠征の苦しい時期は、ポジティブな意味で悪い波になってくれました。ドーンと落ちた反動で、僕たちは11月に新たな成長を遂げることができたんです」
その後、ザックジャパンは強豪オランダに引き分け、ベルギーから金星を奪い取った。
不動のキャプテンとして日本代表を率いて4年。
長谷部誠は、自身2度目のW杯を迎えようとしている。
「大会中にいかにリラックスできるか、も大切なポイントです」
彼の癒しアイテムは本だという。
「ブラジルには10冊くらい持っていく予定です」
ちなみに前回大会、それは羊羹だった。
「羊羹にハマっていて、W杯期間中、大切に少しずつ食べていました。ただ、30歳になったからか、それとも食べ過ぎたからなのか、もう甘いものはいいかなって(笑)」
長谷部がW杯の試合をはじめて見たとき、そこにはマラドーナが躍動していた。
「父親から1986年W杯の『マラドーナの5人抜き』のビデオを見せられました」
その映像を見ながら聞いた父の言葉を、長谷部はいまも覚えている。
「サッカーは世界で一番、競技人口が多いスポーツだ。もしそこで日本が一番になったら凄いことだぞ。とにかくサッカーで世界一になれ」
世界一…
チームメイトの本田や長友はずっと前から「優勝」と公言してはばからない。
長谷部も言う。「イタリア代表ですら『ベスト8』と言っているらしいけど、そんなことは関係ありません」
(了)
ソース:Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2014年 7/17号 [雑誌]
長谷部誠「最高の準備をして7試合を戦い抜く」
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