その瞬間、一瞬声を失った。
まさか、あんな痛恨のミスが出るなんて…。
WBC準決勝、日本vsプエルトリコ、8回裏。
0対3で負けていた日本の攻撃は、残すところあと2回。
「当然、ファンだけでなく日本ベンチも逆転劇を期待して、この8回裏を迎えたはずだった(Number誌)」
ワン・アウトから鳥谷敬が三塁打。井端のタイムリーで1点を返した日本。
さらに内川聖一のヒットで、ランナーは1、2塁。そして迎えるバッターは4番の阿部慎之助。
「いやが上にも、逆転ムードは高まった」。
逆転の舞台は整っていた。
バッターボックスに立った阿部慎之助は、今大会当たっている。この場面でホームランが出れば、一打逆転だ。
初球はファール。
そして2球目、一塁ランナー内川が走った!
盗塁だ!
当然、二塁ランナー井端も同時にスタート切った。ダブルスチール(重盗)だ……と思ったその瞬間、二塁の井端はすぐに走るのを止めて塁に戻ってしまった。
それでも、一塁ランナー内川はそれを知らずに、顔を下に向けたまま二塁に猛進。ランナーのいる二塁へ…。
顔を上げた内川は、一瞬何が起こったのか分からなかった。
2人のランナーが2塁を挟むように鉢合わせ。そして、そのまま、内川はタッチアウト。
「膨らみかけた逆転の風船は、これで一気に萎んでしまった(Number誌)」
「走塁ミス?」
それにしても、まさか強打者・阿部がいる場面で、ダブルスチール(重盗)とは…。
たとえピッチャーのロメロはクイックが下手だとはいえ、キャッチャーはメジャーでも強肩で鳴るモリーナだ。そう易々と盗塁を許すキャッチャーではない。
いったい、コーチからはどんなサインが出ていたのか?
「必ず盗塁(重盗)しろ。タイミングは任せる」
それが、一塁コーチャー緒方耕一のサインだったという。
「もちろん、打席には阿部がいるので、カウントが不利になる前の『できるだけ早いタイミング』で走るに越したことはない(Number誌)」
だから、一塁の内川も、二塁の井端も初球からいくつもりでタイミングを計っていた。
「初球ファールの2球目、ここで走ろうとしたが、二塁の井端はスタートが悪かったために断念。だが、一塁の内川は、止まった井端を見ずに走ってしまったわけだ(Number誌)」
「僕のワンプレーで、全てを終わらせてしまいました…」
試合後の内川は、涙に濡れていた。
「飛び出した自分が悪いんです…。すべて僕の責任です…」
この試合、日本はプエルトリコに負けた(1対3)。
WBC3連覇は夢と消えた…。
「3連覇を自分が止めたような気がして申し訳ないです…」
「戦犯」とされた内川は、全責任をひとりで背負うようなコメントを残した…。
さて、この内川のプレーについては、さまざまな意見が飛び交っている。その多くは非難の嵐だ。
そんな嵐が吹き荒れる中、イチローのコメントばかりは思いやりに満ちていた。
「あの場面で、あのスタートができるのは凄い」と、イチローはまず内川の思い切りの良さを讃える。
二塁ランナーの井端が引き返したのを見て、内川も戻るべきだったという指摘に対しては、「ほとんどの捕手に対しては、見ながら戻れる。でも、モリーナには無理」と一蹴。
プエルトリコのモリーナは、大リーグ屈指の強肩キャッチャー。たとえイチローとて、そうそう塁を進められるものではない。
イチローの持論はこうだ。
「走塁は野球で最も難しい技術」
日米通算651盗塁のイチローが、そう言うのである。
イチローには、重圧の中で塁に立つランナーの気持ちが痛いほど分かるのだろう。
そのイチローが、あの場面での内川の心情を思いやるのだ。
いわんや、余人は…。
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ソース:Number
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