相手から見て「消える動き」とは、筋肉で動いていないゆえに速い。
筋力を使った移動は遅いので、使うのは「重力」である。
沖縄空手の「新垣清(にいがき・きよし)師範」は、そう言う。
「すべての動きは『重力落下』。自分は動いていない。落ちているだけです」
一方、「立つ」ということは、エネルギーを作るということ。人は落ちることにはエネルギーを使わないが、立ち上がるにはエネルギーを必要とする。
「ちゃんと立ち、ちゃんと落ちることが重要なのです」と新垣師範は言う。
「たとえば、何も知らずに歩いている時、物陰から襲われる。気がついたら、目の前まで相手が迫ってきている。そんな時、身を護るには『この動き』しかないんです」と新垣師範。
「この動き」とは重力による動きに他ならない。重力による自然落下を使いながら、身を沈め、動きを生み出すのだそうだ。
「昔の剣術の時代、剣から身を護るには『この動き』しかなかったのです」
新垣師範が言う昔とは、沖縄(琉球)が薩摩藩に統治されていた江戸時代。
刀剣を帯びた本土の武士たちが繰り出す斬撃(多くは示現流)から身を護るための徒手空拳の技。それが沖縄空手の本質なのだという。
「蹴りは、ハシゴを登るような感覚で」
ハシゴを登る時、重心を後傾させる者はいない。必ず重心を前に倒すはず。重心が前方に移動すれば、落下のエネルギーが使えるようになる。ただ、ヒザを自分の腹に当てるつもりで抱え込む動作は必要となる。
ヒザを抱え込むのにはエネルギーがいるが、「相手を蹴る力は、ほとんど落下する重力に負っている」。
重力落下は予備動作を必要としないため、その蹴りは床を蹴らない。だから見えない。
これが「起こりの見えない蹴り」、「消える動き」の正体となり、相手の反応できない蹴りとなる。
「本来、空手には『先(せん)の思想』しかないのです」と新垣師範。
「心を居着かせることなく、相手が動く前に動く」
幼少時より沖縄古伝の空手を学んできた新垣師範。沖縄在住の師範たちを通じて、古伝の空手を研究した成果が、著作「沖縄武道空手の極意」である。
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出典:月刊 秘伝 2013年 02月号 (特別付録DVD付)[雑誌]
「沖縄空手道無想会 新垣清師範」
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