「あぁ、負けたんだ…」
そう思うと、悔しくて悔しくてたまらなくなった。ブラジルのカカに決められた最後の失点シーン。それが頭を離れない。
「カカがああいう場面で、縦に出て左足を振り抜くシーンを、オレは映像で何度も見ていたのではなかったか?」
それでも、吉田麻也はカカとの1対1に翻弄され、その日4点目となるゴールを奪われた…。カカを一人にさせてしまったのが、自分のパスミスだったことが、よけいに悔やまれる。
ロンドン五輪の大舞台で、あれほど頼もしい守備プレーを見せた男の背中は、悔しさで打ち震えていた…。そして、後半44分、吉田は交代でピッチを後にした…。
華麗なる個人技を誇るブラジルの速攻に、日本の守備網はなす術もなく蹂躙され、あまりにも無力。その結果は0対4。ザック・ジャパン史上最悪の敗戦となってしまった。
「完全に『個の力』で負けていました」と、吉田は悔しさを滲ませる。
本来、吉田はちょっと引いて構え、相手の出方を見て対応するのを得意としていた。そして、個の力よりも組織力。味方と連動しながら、守り切るスタイル。それが吉田の守備哲学だった。
確かにそうしたスタイルは多くの戦いでうまく機能した。しかし、個の力が抜群に秀でたブラジルに対しては、完全に後手に回る結果となってしまった。
「個の能力が高い相手には、引いて構えるのではなく、前から強くいかなければならない場合もある」。ブラジルに徹底的に打ちのめされた後の吉田は、そんな思いを強くしていた。
「個人でも相手を封じ込める力強い姿」
ブラジル戦の後、吉田はその姿を明確に意識するようになっていた。
「組織で守ることは僕の良さでもあるし、そのやり方が揺らぐことは絶対にない。でも、センターバックは『個の勝負でどれだけ相手を止められるか』というポジション。これからは、『自分でボールを奪いに行く守備』を身につける」
カカのカウンターを止めらなかった吉田は、そう心を新たにしていた。
一方、サイドバックの長友佑都も、吉田と同じようなことをブラジル戦に感じていた。
「世界と戦っていくには、誰か一人は個人で突破して抜けるようなプレーをしないといけない」
長友は「世界一のサイドバックになる」という誓いを、前回のW杯以来、抱き続けていた。
ブラジル戦での日本代表は、先制点を奪われてから「前かがり」になってしまったように見えた。そして、ブラジルは前に出た日本の裏を突くように得点を重ねていった。
そのため試合後、「引いて守っていれば、こんな結果にならなかったのでは?」という疑問が長友に投げかけられた。
それに対して、長友はピクリとも表情を変えずに、こう言い切った。
「引いていては僕らのサッカーはできないし、世界のトップには勝てない。引いて守るサッカーをしていまったら進歩はないと思うし、そんな試合はしたくない」
長友が見据えるのは、あくまでも世界一のサイドバック。それは、引いて守るという延長線上にあるものでは決してなかった。
ブラジルとやる前は、どちらかというと自分たちよりレベルの劣る国との試合が多く、幸か不幸か、守備陣の課題が表出することはなかった。
ところが、フランス、ブラジルと立て続けに世界の強豪チームとやり合うことで、アジアでの試合では味わうことのできない「新たな刺激」が守備陣を奮い立たせることとなった。
確かにまだ世界との距離はある。
しかし長友は、「今、自分が見ている『世界』は、かなり近いところにある」と実感している。
結果だけみれば惨敗したブラジル戦ではあったが、日本代表は次への足がかりを得ることができた。「日本はすでに新しい段階に進んだことを自覚すべきだろう」と、元ブラジル代表のドゥンガは評価する。
「日本の実力は、W杯出場国の中でも真ん中より上にあり、ベスト8、そしてベスト4という位置をねらわなければいけないんだ」とドゥンガは語る。
「それだけの能力、資質を持った選手たちが、私の母国、ブラジルのW杯で躍動するのを今から楽しみにしているよ!」
「吉田麻也 4失点の先に見据える境地」
「長友佑都 世界はもはや手の届くところにある」
「ドゥンガ W杯で求められるのは強豪としての自覚だ」
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