「イチローは限界か?」
昨季は、10年連続の年間200本安打が途切れ、今年もニューヨーク・ヤンキースに移籍するまでのイチローの打率は、2割6分1厘と低迷していた。
38歳という年齢的な限界説もささやかれる中、そのイチローはアメリカ・メジャーリーグの常勝軍団ヤンキースの懐に飛び込んでいった。
今までのイチローが所属してきた球団といえば、日本のオリックスにしても、アメリカのシアトル・マリナーズにしても、いずれも「新興球団」。それに対して、ニューヨーク・ヤンキースと言えば、球界一の資金力に裏打ちされた伝統のチームであり、殿堂入りが確実な大スターたちがズラリと名を連ねている。
「かつてない類の決断」、それがイチローのヤンキース入りだった。
そして、残したイチローの成績は、178安打(9本塁打)・打率2割8分3厘。
年間の安打数は、メジャーリーグ移籍後の12年間でもっとも低く、打率もイチローにしては低い数字だ(イチローの通算打率は3割2分2厘)。
一見平凡に映る数字、しかしこの数字を違う角度で眺めて見ると、いかに輝いているかを理解できる。
まず、安打数が少なかったのは、常に先発起用されていた時代と異なり、ヤンキースのイチローには代打や代走の試合もあったからである。
とりわけ、イチローが打てなかったのは「代打」で出場した時である。6打数0安打。仮りに、代打での成績を除外すれば、イチローの打率は3割3分0厘にまで跳ね上がる。これは過去の彼のアベレージを上回る数字だ。
今までのイチローは、相手投手が右投げであれ左投げであれ、その打率にまず差はなかった(わずか1厘の差)。そして、ヤンキースで打順が2番になったり8番になったりしても、それが打率に影響を与えることはなかった。そんな柔らかな順応力を持つイチローも、代打には苦しめられた。「18年間ずっと先発だっただけに、代打への適応はハードルが高いのだろう」。
また、イチローの年齢、「レギュラーでいるだけで珍しい年齢層」も考慮しなくてはならない。10月22日には39歳になった。
現在の大リーグでイチローと同じ年か年上の選手を探してみると、主力投手はチラホラいるものの、主力の野手となると2人しかいない(イチローも野手)。そして、その内の一人(チッパー・ジョーンズ40歳)は今季かぎりで引退を表明している。
打率を並べてみると、35歳以上の選手に絞れば、イチローの打率は「アメリカ大リーグ全体で5番目」であり、しかもその5人の中で「イチローは最年長」なのである。
すなわち、年齢というフィルターを通して見たイチローは、大リーグで突出した存在だということである。
さらに、年齢を考慮せずとも、チャンス時のイチローは強い。
月別の打率を見てみると、最も高かった月が9月の3割8分5厘。この月は「オリオールズと地区優勝を争った『緊張感の高い時期』」である。その緊張感の中で、イチローは「ズバ抜けていい結果」を出しているのである。
ちなみに、この9月、年齢的に限界の近いベテラン勢は暑さに消耗して、その成績を下げていくのが常。そんな中、イチローは逆に成績を上げてきたのだ。
この「緊張感」というのは、イチローを高める重要なキーワードだ。
ヤンキースの本拠地ニューヨークの「ヤンキース・スタジアム」での成績は、打率3割3分8厘と極めて良い。一方、古巣マリナーズの本拠地「セーフコ・フィールド」での成績は、打率2割1分6厘と「考えられないくらいの低迷ぶり」である。
なるほど、緊張感あふれるヤンキースに身を置き、緊張感あふれる優勝争いに加わったイチローは、ふたたび覚醒したのである。
「イチローに必要だったのは、やはりペナントをかけた緊張感であったのだと分かる」
移籍後に成績を上げたイチローは、「再契約の可能性がきわめて高い」。再契約に有利なデータは、ここに上げただけでも十分すぎる。
さらに、来年は日米通算4,000本安打のかかるシーズンとなる。過去に通算4,000本安打を達成した選手はタイ・カップとピート・ローズ、この2人しか史上にいない。
あと116本。「順当なら夏には達成される」。もはやイチローにとって、「空前の記念碑」は眼前に迫っている!
ソース:Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2012年 11/8号
「イチロー 逆襲は続く」
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