2013年6月15日土曜日

「個」として。香川真司 [サッカー]



「プレミアリーグ、やべぇぞ!」

香川真司は、リーグ初ゴールを決めたその興奮のまま、後輩の清武弘嗣に電話をかけていた。

清武はセレッソ大阪の後輩であり、まだドイツへ渡ったばかりだった。



「何が『やべぇ』のかまで分かりませんでした」

と清武は言うものの、香川のテンションの高さは確かに「やばかった」。







香川真司が一年目のイングランド・プレミアリーグで初ゴールを上げたのは、本拠地オールド・トラッフォードでの「フルアム戦(8月25日)」。

「フルアムって、前年度は確か9位だった。そんな中位のチームにもデンベレみたいな凄い選手がいたんです」と香川。

「1対1の局面のレベル、『個々の力』は、プレミアのほうがドイツより遥かに高いと思いましたね」



かつてドイツ(ドルトムント)でプレーしていた時は、「中位のチームとやって、『個の力』ですごいと思う選手はいなかった」と香川は言う。

ところがどうだ。イングランドのプレミアときたら、中位のチームから「すごい個」がゴロゴロしている。

自身のチーム「マンチェスター・ユナイテッド」は言わずもがな。世界有数のトップ・クラブであるこのチームには、ファンペルシ、ルーニー、エルナンデス、ギグス…。チームメイトの「個のレベルの高さ」は尋常ではない。







そんな「個の力」がひしめくマンチェスター・ユナイテッド一年目。

香川が明らかな頭角を現したのは、「ノリッチ戦」で「ハットトリック(1試合3得点)」を達成した時だった(3月2日)。

「オマエ、上手いなぁ」

「やるじゃねーか!」

マンチェスターの選手らは、香川のシュートを絶賛してくれた。周囲からの評価は、この時から明らかに変わったという。



香川本人にとっても「とくに3点目」が快心だった。

「ファーストタッチ、シュートの質、自分のフリーランニング…。もう全てが本当に素晴らしい、キレイなゴールだったからね」と香川は微笑む。

プレミアリーグの「すごい個」の中で揉まれた香川は、自分もその「個」の一人となろうとしていた。



「大男」のそろうプレミアリーグ。その中で「身長172cm」の小柄な香川は、いわば「異色の存在」。

「だから、自分はみんなとは違った色を出せている」と香川は言う。

「サイドアタッカーを活かすプレーを高いレベルでこなせるのがルーニー。でも、とくにゴール前の狭いエリアでなら、自分の方が彼よりも上手くコンビネーションを築けるというのは感じているからね」と香川。



だが香川は、まだルーニーやファンペルシのように「すべての試合で絶対に使われるくらいの信頼」をマンチェスター・ユナイテッドでは得られていない。

ドイツのドルトムント時代には、香川はそういう選手だっただけに、この一年目には歯がゆさが残る。

「彼らみたいに、『一人でも局面を打開できる強さ』は絶対に必要なのかな」と香川は話す。

結局は、「個の力」が試合を決める。そんな試合を香川はプレミアリーグで一年間戦ってきたのであった。










今シーズンを「リーグ優勝」で飾ったマンチェスター・ユナイテッド。

香川真司は日本へ戻り、そして「W杯アジア最終予選」の日本代表のユニフォームに着替えた。



オーストラリア戦で「左のFW(フォワード)」として先発した香川。そのプレミア仕込みのプレーは、確かな存在感を放っていた。

「実際、オーストラリア戦における香川個人のパフォーマンスは、この1年間の代表におけるベストだったと言えるかもしれない(Number誌)」



再三オーストラリア・ゴールに迫った香川。だが無念にも、キーパーのファインセーブやゴールのクロスバーに阻まれた。

結局、香川はキレのあるプレーを見せながら、このオーストラリア戦で「得点」を上げることはできなかった。

「良いプレーをしても、ゴールを獲れなければ『むしゃくしゃ』する。いや、『すごいむしゃくしゃ』するかな」と香川。



この試合、決めたのは「本田圭佑」だった。

本田はW杯出場のかかった「同点ゴールのPK」を、堂々と決めてみせた。

「香川のこの日の好パフォーマンスは、時間とともに人々の頭から消えていってしまうだろう。一方、本田が豪快に決めたPKは、多くの人の心に深く刻み込まれるはずだ(Number誌)」







「圭佑くん(本田)はやっぱり、こういうことろで違いを生み出す。その存在感は大きかったし、それが結果にも表れている」

試合後、記者たちから5重に取り囲まれた香川は、ミックスゾーンでそう語った。



本田は記者会見で、今後の日本代表の課題をこう語った。

「シンプルに言えば、『個』だと思います」

香川のプレーにも触れた。

「佑都(長友)と真司(香川)がサイドを『個人』で突破したようなところの精度をもっと高めて、ブラジル相手でもできるようにする」

本田は最後にもう一度くり返す。

「結局のところ、最後は『個』です」



「これまでの香川は、本田圭佑という大きな傘の下から出ようと、もがいていたように見えた。でも今の香川は、本田と同じような大きな傘をチームにもたらせるような『個』になろうとしている(Number誌)」

「本田だけが頼りのチームではダメだ。チームの中心は本田なのか? 香川なのか? いや他にもいる、そう思わせるチームにならないといけない(同誌)」



香川自身も「そういう選手がさらに2人、3人、強いチームになるには必要になってくる」と言っている。

プレミアリーグで圧倒された「個の力」

日本代表に物足りなさを感じる「個の力」



次のコンフェデレーションズカップを目前に、香川はこう語っている。

「勝つのは難しい。だけど、だからこそ僕はプレーするんだし、大会がはじまるのが待ちきれない」

「僕たちは優勝するつもりです」







(了)






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ソース:Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2013年 6/27号 [雑誌]
「個の力の差が試合を決める 香川真司」

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