2013年4月24日水曜日

軋ませてでも勝ちを手にする。剛腕モウリーニョ監督(レアル・マドリー)



確かに、レアル・マドリーの「モウリーニョ監督」は名将だ。

昨季、バルサのリーガ4連覇を阻止し、4年ぶりの優勝をマドリーにもたらしたのは、モウリーニョ監督その人に他ならない。



この点、800万ユーロ(約10億円)とも、その倍の1,600万ユーロ(約20億円)ともいわれる違約金を支払ってでも、モウリーニョ監督をインテルから引き抜いた甲斐はあったというものだ。

当時のマドリーは、何としてでも「バルサの天下を終わらせる」という使命に燃えていたのだから。







「打倒バルサ」

その使命を、モウリーニョ監督は病的なまでに追求した。それは、モウリーニョがマドリーの監督に就任して初めてのバルサ戦、その時に喫した0−5という「歴史的大敗」が彼のコンプレックスにもなっていたからだ。

「モウリーニョはなりふり構わずバルサに口撃を仕掛け、レフェリーにプレッシャーをかけるようになった。メディアの前で口を開けば、ジャッジミスの指摘。さらに選手たちにも同調を強いたため、ミックスゾーンからもレフェリーの過ちを示唆する声が聞かれるようになった(Number誌)」



もし平時であれば、モウリーニョ監督のとった行動の幾つかは、クビに繋がってもおかしくないほど苛烈なものだった。だが当時は、バルサの3連覇中であり、それを止めるためには多少の反則行為は許された。

「状況が状況なだけに、勝つためなら何でもアリだった。マドリディスタ(マドリー支持者)の間には、マキャベリズムが蔓延していたんだ。『目的のためには手段を選ばない』ってね(Number誌)」

「打倒バルサ」という大義の旗下、モウリーニョ監督はメディアや審判団などを「敵」と呼ぶことも一向に厭わなかった。







結果オーライ。

モウリーニョ監督が作り出した「戦争状態」は、自らを革命勢力と位置づけることによって、その効果を存分に発揮した。それが昨季のレアル・マドリーの快進撃の起爆剤とも推進剤ともなったのだった。

昨季(2011-2012)におけるレアル・マドリーのリーガ優勝は、モウリーニョ監督の名声に大きな華を添えることとなった。



だが今季、風向きは逆風に転じた。

「モウリーニョの手法は、短期的には奏功しても、長期的には綻んでいくことになる。時間の経過とともに、誰もが革命のプロパガンダに倦み、熱意を失っていくのである(Number誌)」

皮肉にも、バルサという最強の敵を倒してしまったことが仇(あだ)となった。

「バルサが依然として王座に君臨し続けていたならば、ここまでマドリーの内部から『不協和音』が生じることはなかったはずだ(Number誌)」



そう、今季はじめのマドリーを狂わせたのは、内部からの軋みだった。

もし、監督がメディアの前で「擁護する選手」と「叩く選手」とを恣意的に分けているとしたら?

もし、監督が自軍の選手を「好んで使う組」と「そうでない組」に分けていたとしたら?



レアル・マドリーのキャプテン「カシージャス」は、不幸にもモウリーニョ監督から「メディアの前で叩かれる選手」であり、「好んで使われない組」の選手だった。

今季第2戦のヘタフェ戦後の記者会見で、モウリーニョ監督がその敗北を平然と選手に帰すると、カシージャスは公然と反旗を翻した。

「まず反省すべきは、あなただろ。今後、公の場で選手を叩くのはやめてもらいたい」とカシージャスはメディアの前で言い放った。



もともと、モウリーニョ監督は「カシージャスのキャプテン像」を疎んじていた。モウリーニョ監督は「もっと自分に従順なキャプテン」を望んでいたのだ。

「ところがカシージャスは反抗的になっている。キャプテンのくせに、敵であるバルサの選手と仲良くすること自体、理解できない(Number誌)」

ゆえに、モウリーニョ監督はカシージャスを「突然先発から外した」。10年以上、レアル・マドリーのゴールを守り続けていたカシージャスを。そして、カシージャスが左手を骨折するや、正ゴールキーパーからも外してしまった…。



カシージャスはクラブの誇りであると同時に、スペイン代表のキャプテンでもある。

さすがに、モウリーニョ監督の横暴はマドリディスタ(マドリー支持者)の怒りを買った。そして当然、選手たちとの軋轢も深まった。

そして、モウリーニョ監督には進退問題が突きつけられることとなった。「前半戦が終わった時点で18ポイントもの大差をバルサに付けられていた。普通はあの時点でクビになっている(Number誌)」



ところが、レアル・マドリーは後半戦、勢いを取り戻した。

それはモウリーニョ監督が行動を改めたからではなく、「監督への不満が、逆に選手間の距離を縮めたこと」が好転の原因とされている。

監督に反発し、そしてうんざりした選手たち。ほぼ全員の選手たちが、何らかの形で監督と揉め事を起しており、そのことが皮肉にも選手間の団結の契機となったのだった。



シーズン終盤を迎えて、レアル・マドリーの調子は悪くない。

「3年連続CL(チャンピオンズ・リーグ)ベスト4入りは、クラブにとって24年ぶりの快挙であり、この先には10年ぶりとなる決勝進出、ひいては優勝のチャンスが待っている(Number誌)」

たとえ、お互いに気に入らぬことはあっても、監督と選手の目標は「勝つこと」にある。呉越同舟とは、そういうことだろう。



「打倒バルサ」という病に取り憑かれてしまったモウリーニョ監督。もしCL(チャンピオンズ・リーグ)に優勝すれば、その名はクラブの歴史に刻まれる。

「だが負ければ、バルサに踊らされた『一年天下』のピエロで終わってしまう(Number誌)」

その彼の評価は、今後一ヶ月で決まる(準決勝4月23日〜。決勝5月25日)。ベスト4には、あのバルサも名を連ねている。マドリーとの直接対決があるとすれば、それは決勝という大舞台、ということになる。







(了)






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ソース:Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2013年 5/9号 [雑誌]
「モウリーニョ 名将が取り憑かれた”打倒バルサ”という病」

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