「こんな強いバイエルンは見たことがない…」
辛口で知られる元GK(ゴールキーパー)のカーンは、そう絶賛する。
「現在のバイエルンは、クラブ史上最強かもしれない(Number誌)」
今季のバイエルンは、ブンデスリーガ(ドイツのサッカー・リーグ)の優勝を史上最速で決めた(4月6日)。リーガ2連覇中だった王者ドルトムントには1度も負けなかった。
そしてさらに、欧州CL(チャンピオンズ・リーグ)では準決勝に進出。その第1戦でバルセロナ(スペイン)に圧勝して見せた(4対0)。
「この伝説的なチームが生まれたのには、明確な理由がある。きっかけは昨季、CL(チャンピオンズ・リーグ)決勝において、PKの末にチェルシーに敗れたことだった(Number誌)」
1点をリードしていたバイエルンであったが、試合終了間際の88分にドログバのヘディングで追いつかれ、延長線ではPKをもらいながら止められ、最終的にもつれ込んだPK戦で敗れた。
「ホームでの屈辱的な敗北を味わった(Number誌)」
この屈辱によって、バイエルンのプライドと傲慢さは打ち砕かれた。
「自分たちは謙虚になった」とトーマス・ミュラーは語る。
かつてのバイエルンならば、他のチームを手本にするようなことはなかったかもしれない。
だが、「全員が成長に飢えていた」。
ドルトムントとバルセロナが、ボールを奪われた瞬間にプレスをかける守備(Gプレス)、その映像をハインケス監督は選手たちに見せた。
「その結果、ボールを失った直後のハイプレスは、バイエルン再生の最大の鍵になる(Number誌)」
「ときどき相手陣内で、わざと相手にボールを渡すんだ」
敵将、バルセロナのグアルディオラ監督は、かつてそんなことを言っていた。
「常に自分たちがボールを持って攻撃しようとすると、相手は秩序だって守るようになる。けれど、ボールを渡せば、必ず相手は前に出ようとする。その瞬間にボールを奪えば、ゴール前に侵入できる」
最強指揮官の呼び名の高い、元バルセロナのグアルディオラ監督。リーガ3連覇、CL(チャンピオンズ・リーグ)を2度制した名将中の名将。メッシを中心としたバルセロナの黄金時代を築き上げた名監督だ。
その彼が、来季よりバイエルンの指揮を執ることとなる。
「なぜバイエルンを選んだのか? 2013年のサッカー界の最大の謎の一つだ(Number誌)」
バルセロナを去った後のグアルディオラ監督には、ビッグネームからの勧誘が引きも切らなかった。マンチェスター・シティ、チェルシー、ACミラン…。年俸の提示額も、他クラブの方が高かったと言われている。
ドイツのブンデスリーガは、イングランドのプレミアリーグやイタリアのセリエAより下のランクとも見られていた。
「僕はサインするべきかな?」
3時間に及ぶ交渉の末、グアルディオラ監督は、バイエルンのヘーネス会長にそう聞いた。
「悪くないアイディアだ」
ヘーネス会長は、そう答えた。それが、「バイエルン史上初のスペイン人監督」が誕生した瞬間だった。
ヘーネス会長は、グアルディオラ監督がバイエルンを選んだ理由を、キッカー誌のインタビューでこう明かしている。
「決め手になったのは、バイエルンとバルセロナの『フィロソフィー(哲学)』がとても似ていたことだった」と。
何より共通していたのは、「クラブのレジェンドたちに最大の敬意を払っていること」だった。
現在のバイエルンでは、元選手たちが多く指導者として働いており、元選手たちの子弟もまた多くチームに在籍していた。
「バルサのカタランという民族性とは異なるが、『血の結束』がある点で極めて似ている(Number誌)」
「伝統と結束」
それが、バイエルンとバルセロナの共通項だった。
「オイルマネーに簡単にクラブを売り飛ばすチームとは一線を画するのだ(Number誌)」
近い将来、ヨーロッパのクラブシーンで、大きな「ルール変更」が行われようとしている。
「ファイナンシャル・フェアプレーの適用がさらに厳格になり、オイルマネーによる赤字補填が許されなくなる可能性が高い(Number誌)」
そうなると、バイエルンには大きなチャンスとなる。バイエルンの総資産は約1,600億円、自己資本比率は78%、超優良企業なのだ。
「今のバイエルンは強いが、まだまだ伸びるポテンシャルがある」
元GK(ゴールキーパー)のカーンは言う。
「来季、グアルディオラ監督がこのチームをどう進化させるのか。バルセロナのようにヨーロッパを支配できるかどうかが楽しみだ」
バルセロナは、当のグアルディオラ監督が生み出した世界最強のチーム。
その生みの親がまた、新しいチームを率いて子供たちを打倒するというのも、因果なシナリオである。
しかし、それは夢ではない。稀代の名将は今、その準備が整っている。
(了)
関連記事:
メッシさまさま。バルサ王朝の揺らぎ(サッカー)
軋ませてでも勝ちを手にする。剛腕モウリーニョ監督(レアル・マドリー)
ドルトムント、クロップ監督の「Gプレス」。時には柔軟に…
ソース:Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2013年 5/9号 [雑誌]
「グアルディオラ&バイエルン 最強指揮官がバルセロナを倒す日」
0 件のコメント:
コメントを投稿