スポーツ選手たちの「心の声」。
松岡修造は、その声を聞くことを、何よりの楽しみにしているという。
熱狂の会場で選手たちを目にし、本気で戦う選手たちの思いを間近で感じる。現場で起きていることすべてを見続ける。そして、戦いを終えた選手と1対1で話を聞く。
「こんな思いで頑張り、こんな挫折をしていたのか…」
彼らの心の声を聴くと、ますますその選手を応援したくなる。さらには、自分ももっと頑張ろうという明日への力に変わる、と松岡は言う。
「選手が何を感じたのか、その心を知りたい。取材を通して、僕が視聴者に届けたいのは、選手の人間味であり、心の声だ」
そんな熱い男の取材は、ときに容赦がない。
「とにかく頑張ります」などという曖昧な答えは許されない。すかさず、「どんな風に頑張るのですか?」と、松岡は選手の心の奥底への侵入を試みる。
選手たちも「心の声」を言葉にできないことがある。
そんな時、松岡は待つ。心の声がなんとか言葉として表現されるまで、待ち続ける。選手も自分の心の声に耳を澄ます。すると、それがポツリと言葉になったりする。
「インタビューを終えた選手が『思っていたことを言葉にして、自分が考えていることに気づけました』と話してもらえることこそが、僕の何よりの喜びなのだ」と松岡は語る。
選手たちの心に真摯に向き合うほど、本気で応援したくなる。だから、松岡は本気で取材をし、そして本気で応援するのだ。
「今では応援することが生き甲斐と言っていいほどになった」と松岡は言う。
「日本のスポーツには『する』『観る』という2つは定着していると思う。だがもう一つ、世界にあって日本に足りないものがある」
松岡は続ける。
「それはスポーツを『支える』力だ」
現役時代、松岡修造というテニス・プレーヤーは、ウィンブルドンでベスト8進出(1995)。日本人男子として62年ぶりの快挙を成し遂げた男だ(自己最高ランキング世界46位)。
その男は今、スポーツを「する」立場から「支える」それへと生き甲斐の場所を移している。
「僕自身、オリンピックで心に残るのは、競技だけではなく、オリンピックを『支える』人々の魅力だ。訪れた国々のボランティアのみなさんのホスピタリティは忘れられない」と松岡は言う。
だから、東京にもオリンピックが来てほしい。
「東京にオリンピックが来れば、多くの人がボランティア活動に参加するだろう。そして、より良い大会にしようと本気でサポートする過程で、スポーツを『支える』喜びを知るはずだ」
松岡はそう確信している。
選手たちが「心の声」を言葉にするまでは、それに気づけていないように、応援する側も本気でスポーツを支えてみなければ、その本当の価値には気づけないのかもしれない。
「2020年のオリンピックが東京に来れば、日本の心が世界中の皆さんの心に残っていくはずだ」と松岡は言う。
日本の心。それを我々は知っているのだろうか。その心を本気で他国に伝えようとする時、ようやくそれは現れるものなのかもしれない。
スポーツだからこそ出来ること。
スポーツを通すからこそ見えてくるもの。
今の日本には、そんな風景が希薄になってしまっているのかもしれない…。
(了)
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ソース:Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2013年 4/18号 [雑誌]
「”する””観る”から”支える”へ。東京五輪開催で、日本は変わる!」
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