「うるせぇっ!」
中山雅史(なかやま・まさし)は、思わず言い返していた。
ヨルダンのピッチに入った途端に、ブーイングを受けたのだった。彼は選手ではなく、解説者だったにも関わらず。
「アウェーの厳しさ? 万々歳じゃないですか」
むしろ、この雰囲気を歓迎して戦え、と中山はツバを飛ばす。
「これでなきゃ、アウェーじゃねぇぞっ! ってね」
ブーイングの洗礼を受けた中山は、心に期していた。
「オマエら、絶対に黙らせてやる!」
負けるわけにはいかないゾ、日本代表!
ところが…、最終的に黙らされたのはゴン中山のほうだった…。
幾度も決定的なチャンスを作れど「決め切れない」日本代表。
終わってみれば1対2、ヨルダン相手にまさかの惜敗…。
「決定力不足? それ以前の問題でしょう」と中山の口は辛い。
日本はシュートを打てる場面でも、ボールを大事にしすぎていた感があった。
「慎重になりすぎたんでしょう。最終予選の重要性が頭にあって、より確実に1点を取りたいという心理が働くのは分かる。自分が打つよりもフリーの選手にパスしたくなるのも分かる。でも…、なんで打たないんだよ!」
そんなシーンが度々だった。
「『なんで打たないんだよ!』と怒鳴るより、シュートを打って『よし、次!』と声を掛け合うほうがいいに決まってるんですから」
シュートを打つこと、それがチームのリズムであるはずだった。
「最終予選の難しさ? そんなの当たり前ですよ」
「岡崎は、よくやっていたと思いますよ」
チームがボールを大事にしすぎる傾向にあってなお、岡崎は唯一人「思い切りの良さ」を見せていた。後半にGK強襲の左足シュートなどが、まさにそれだった。
豊富な運動量で、根気よく縦への走りこみを続けた「岡崎慎司(おかざき・しんじ)」。
「パスが来ると信じて走り続けていたからこそ、決定機に絡むこともできましたよね。そうやって『流れ』を引き寄せられるのがアイツの特長だと思います」と中山は評価する。
「岡崎は魂を揺さぶるプレー、身体を投げ出すプレー、ケガを厭わないプレーができる。僕はすごく好きですね」
前田遼一(まえだ・りょういち)は?
彼は「どフリー」で2つのヘディングを外していた。
「FW(フォワード)はあれを決められなかったという結果がすべて。練習なら間違いなく入っていただろうあのシュートで、思わず余計な力が入ってしまうのが代表の舞台、W杯最終予選なんです」と中山は厳しい。
2度の決定的なゴールチャンスを前田が逸したのは、今更ながら痛恨の極みであった。
「でも、フリーでシュートを打てていることがアイツの能力の高さ。だから、僕はアイツに期待したくなるんですよ」と中山はフォローする。
「話が少しそれるけど、デスゴール? そんなこと気にするな! そんな都市伝説、むしろありがたいと思え!」
※前田がシーズン初ゴールを決めた相手チームは、6年連続でJ2に降格している。そのため、前田のゴールはデスゴールと呼ばれるようになった。
「熱いもの」を外にだす岡崎に対して、前田は「ずっと内に秘めているタイプ」。
ゴン中山的には、露骨な岡崎のほうが好ましい。岡崎をしてゴン中山の「後継者」と呼ぶ人もいる。
中山は言う、「FW(フォワード)は特攻隊長ですよ。力の限り行くしかない。そのプレーで後ろを感化しないといけない。チームを活性化させないといけない」。
「火ですよ。導火線の火」
FWにはそうあって欲しい、と中山は願う。
中東アウェーでヨルダンに敗れた日本は6月、ホームに帰ってくる。
きっと、その時だろう、導火線に火が付くのは…!
(了)
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ソース:Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2013年 4/18号 [雑誌]
「中山雅史のストライカー放談 Gon's Vision」
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