「アイツはホントに日本人なのか!?(笑)」
元イタリア代表のマルコ・マテラッツィは嬉々として、「長友佑都(ながとも・ゆうと)」のことを話し出す。
「あの陽気さというか、開けっぴろげの性格とか、とにかくアイツが日本人だとは、到底おもえないんだ(笑)」
長友がイタリアのビッグクラブ「インテル」に行ったのは、今から2年前。
インテルといえば、過去ヨーロッパ王者に3回輝き、イタリア国内を制すること18回。伝統と格式ある名門クラブである。
「初めてインテルに来た日だったかな…」
マルコは、2年前に初めてチームに入ってきた日本人(長友)のことを振り返る。
「世界一マジメなはずの日本人が、ヘタな冗談は言うわ、みんなとゲラゲラ笑ってふざけ合ってるわ…。初日の一発目から、チームメート全員を虜(とりこ)にしたわけ(笑)」
長友の独特のキャラクターは、文句なしにチームメート全員から愛された。
「ヤツ(長友)は朝から晩まで、ずっと笑ってる」とアントニオ・カッサーノ。「あえて欠点をあげるとしたら、ヤツが何を話しているのか、よくわからないんだよ(笑)」。
長友の話すイタリア語は、なぜか訛(なま)っている。
「人一倍愛嬌のある小さな日本人が、イタリア南部なまり全開で話しかけてくるんだ。それだけで周りのみんなは笑いをこらえるのに必死だよ(笑)」
そんな笑える新人・長友佑都。
名門インテルに抜擢されたのは、古巣チェゼーナでの活躍がイタリアで脚光を浴びたからであった。
しかし、「出る杭を打つ」ことは、多くのイタリア人選手たちが得意とするところだ。インテルに入ったばかりの輝ける新人は、敵チームから徹底的に狙われた。そして、その活躍を封じられた。
「ナガトモはインテルの穴だ」
思うような活躍ができない長友を、イタリアの多くの識者たちが酷評した。
「悪い時の長友に対するメディアの評価は、10点中おおむね4点台という酷いものでした。もし、あそこで外圧に屈していれば、長友は消えていたかもしれない…」と、ある記者は語る。
しかし現実には、長友が外圧に動じることはなかった。
いやむしろ長友は、持ち前の脳天気さで、その重圧を自らのエネルギーへと昇華させてしまったのだ…!
結果的に、長友は名門インテルの主力に、わずか2年で登り詰めることになる(今季はほぼ全試合にレギュラー出場)。インテルの指揮官ストラマッチョーニは、そんな長友を手放しで褒め称える。
「私がインテルの監督になってから、最も成長した選手は、ほかでもないユウト(長友)だ。インテルというビッグクラブのプレッシャーをモノともせず、こんな短期間でチームに適応していることは驚異的ですらある」
辛辣なコメンテーターでさえ、長友の話となると、お得意の辛口が鳴りをひそめる。
「これまでヨーロッパに渡った日本人の中で、長友は本物のジョカトーレ(サッカー選手)と呼ぶに、最もふさわしい」と、大御所のマリオ・スコンチェルティも太鼓判を押す。
インテルのチームドクター(フランコ・コンビ)は、長友の驚異的な身体に驚いた。
「ユウト(長友)は右肩を脱臼した。手術を検討するほどの重傷だったが、今では痛みを全く感じていないと彼は言う(結局、手術はせず)。彼の身体を診ていて思うのは、ほかの選手よりもケガの回復時間が短いんだ!」
記者のロベルト・モンツァーニも、長友の身体能力に舌を巻く。
「今までそれなりの数の選手を間近で見てきたが、あれほど卓越したスピードと耐久力を備えた選手は、ナガトモ以外にいない。あの速さを90分間維持できるとは、とても信じ難い!」
「たどり着くよりも、そこに留まるほうが、格段に難しい」
古い格言はそう言うが、長友は名門インテルにたどり着き、そして留まり続けている。
「聡明な彼は、この国で生き延びていくために何が必要かに気づいているのでしょう」とモンツァーニ記者は言う。
長友がインテル移籍後に初ゴールを決めた時、彼は深々と頭を下げた。いまや誰もが知る「お辞儀パフォーマンス」である。
「あれは全国的なヒット作だからね(笑)」
今では、親友のカッサーノも長友と一緒に「お辞儀パフォーマンス」をやってくれるまでに。
「インテルのクラブハウスで私を見つけると、ユウト(長友)は必ずアレをやってくれるんだ」とインテル前任、クラウディオ・ラニエリ。「その姿がじつに愛らしいというか、こちらが癒されるというか…」
そして彼はこう締めくくる。
「ユウトは本当に愛すべき人間なんだなぁ…、としみじみ思う」
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ソース:Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2013年 3/7号 [雑誌]
「カルチョに愛されて 長友佑都」
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