2013年2月15日金曜日

シンプルな原則が自由を生み出す「システマ(ロシア格闘技)」



「息を止めて10歩、歩いて下さい」

ゆっくり歩けば、10歩程度ならばそれほど苦しくない。だが、自由に息をして歩いた場合と比べれば、その胸には明らかに「緊張した感覚」がある。



ならば、20歩ではどうか?

さすがに息苦しくなり、身体がストレスを感じていることが如実にわかる。



そうした緊張感やストレスを、セルゲイ師は「テンション」と呼ぶ。

ロシアから来たセルゲイ・オジョレリフ氏は、「システマ」という体術を世界中で指導して回っている人物だ。

「息を止めることで、身体の中に生まれるテンション(緊張)を感じてください。内面にいろいろなテンションを感じてきます」とセルゲイ師。







システマでは、ほかの武道や格闘技とはいささか異なった面がある。それは「攻撃や防御のテクニックを中心には構築されていない」ということだ。

システマでは「呼吸を続けること」、「姿勢を正しくすること」、「リラックスすること」、「動き続けること」、この四原則をどのような状況下でも守り続けるためのトレーニングを行う。

それはどこか、日本武道の「平常心」や「自然体」に近いものがある。



もし、四原則のうちの一つ「呼吸を続けること」が妨げられると、人間はテンション(緊張)を感じる。それは息を止めて10歩歩いてみるだけでも体感できることだ。

また、身体全体にわざと力を入れて歩いてみると、明らかに身体は動きにくくなる。これは四原則の一つ「リラックスすること」が妨げられた結果だ。



「生きているものと死んでいるものの違いは『動き』です」と、セルゲイ師は言う。「その動きを妨げるものとして、身体のテンション(緊張)があります。そして、正しくない考えも、動きを妨げてしまいます」。

疑いを持つことやネガティブな考えもまた、心のテンション(緊張)を生み出し、動きを妨げることにつながってしまう。



システマ四原則の一つ「動き続けること」はどうか?

立ち止まっている人物の周囲を動き回る時、動いている人物は「狩人(かりうど)」の立場。

しかし動きを止めた瞬間、「狩人は逆に『獲物』の立場となってしまう」。動きを止めた瞬間、相手に強いストレス(テンション)を与えることになり、それが相手の攻撃を招き寄せてしまうのだ。

「相手が動き続けている限り、その相手をコントロールすることはできません。しかし、動きが止まってしまえば、その瞬間に相手をコントロールし、投げたり押さえたりすることができるのです」とセルゲイ師。







セルゲイ師は15歳の時から、システマの創始者ミカエル・リャコブ師に学び、その技量を高く評価された人物だ。ロシア政府からはテロ対策の任務と、軍における優れた功績を称えた勲章を授与されている。

システマはもともとロシアの軍隊格闘術であり、現在、ロシアの特殊部隊やロシア連邦保安庁などさまざまな機関により導入されている。

創始者であるミカエル・リャコブ師は、自身が体験した戦闘、人質奪還、武装解除、カウンターテロ対策など、数多くの実戦の中からシステマのノウハウを構築したのだ。



システマでお馴染みなのは、プッシュアップ(腕立て伏せ)。その肘を曲げたままの姿勢で静止する。

すると当然、腕には強いストレス(テンション)がかかり、次第に心も身体もストレスを高めていく。ここで、「強く深い呼吸」を行うことで、ストレスを軽減するように努力する。



「もちろん、ストレスをゼロにすることはできません」とセルゲイ師。「ただ、深い呼吸とリラックスをイメージすることで、自分自身をコントロールすることに意味があるのです」。

深呼吸によって腕の痛みがなくなるわけではないが、それでも「呼吸を続けること(四原則の一つ)」によって、身体の痛みは軽減したように感じられ、その心には余裕も生まれてくる。



こうしたシステマのワークは、一般の人々には「護身術」として役立つ。それが高齢者や女性にも人気の高い理由であろう。

そして武術的にも、重要な動きや心身の状態の原則にも気がついていく。



「日本の人たちは、非常にレベルが安定しています。非常に良い生徒たちです」とセルゲイ師。

セルゲイ師の指導の特徴は、「学ぶ者が何かを見つけられるような教え方」。日本人の多くが、早い段階でシステマの原理を学び取り、使えるようになっていくのだという。



「システマはそもそも生命体のようで、常に動き、変化します」とセルゲイ師。

それとは対照的に、日本の武道は決まった技や動作の反復、形の稽古を重視する。この点、セルゲイ師はどう思っているのか?

「日本の武道はきわめて高度に完成しており、世界中で尊重されています」とセルゲイ師。「ただ、システマの本来の意味は、ロシア語で『芸術』と解釈することもできます。芸術はそもそも決まったルールを持たず、きわめて自由ものです。だからシステマも自由な表現を重視しているのだと思います」。



システマという体系の奥深さ。

それは極めてシンプルな四原則に加え、その自由度の高さにあるのかもしれない。

そして何より、テンション(ストレス)から解消されることの何と魅惑的なことか…!






ソース:月刊 秘伝 2013年 02月号 (特別付録DVD付)[雑誌]
「緊張の中で、いかに自由を生み出すか セルゲイ・オジョレリフ」

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