2013年1月22日火曜日

なぜゴールキーパーを選んだのか? その奥深い喜びとは?



ゴールキーパー(GK)

「およそどんな競技でも、ゴールキーパーは子供たちが奪い合うポジションではない」

それはそうだろう。点を取れる可能性のあるフィールド・プレーヤーとは異なり、ゴールキーパーは「点を取られる方」なのだ。



「最初はやっぱりイヤでしたねぇ。ゴールは取られるんじゃなくて、自分が取りたいですしねぇ」

そう語るのは、サッカー日本代表のGK「西川周作(にしかわ・しゅうさく)」。子供の頃の彼の憧れは、やっぱりカズ(三浦知良)だった。

「みんなより一回り身体が大きかったので、ボクが(GKを)やることになったんでしょうねぇ。腕白相撲に出るぐらいにパンパンでしたから(笑)」





アイスホッケー日本代表の「福藤豊(ふくふじ・ゆたか)」も、身体の大きさを買われてGKになった選手の一人だ。

「正直、誰もGKをやりたがらなかったですね。一番身体が大きいという理由だけで、ボクが指名されまして…」

福藤は史上初めて高校生で日本代表に選出され、以後、日本人初のアメリカNHLプレーヤーとなる選手である。それでも、小3から始めたアイスホッケーは、決してGKをやりたいからではなかった。

「点を取ることに楽しみを感じて、アイスホッケーを始めていますからね。当時の防具はものすごく重くて、水を吸い込むとさらに重くなる。座って立ち上がるのさえ大変なのに、点を取られるとみんなに責められる」



そうなのだ。子供たちはどうしても、「失点したらGKのせい」と思いがちだ。だからなおさら、「ゴールキーパーは子供たちが奪い合うポジションではない」

その結果、GKというポジションを選んだ理由は消極的な場合が多い。むしろ「やらされた」という理由が多いのだ。



そんなGK環境にあって、ハンドボールの日本代表「甲斐昭人(かい・あきひと)」は積極的にGKを志願した一人だ。

「小3でハンドを始めて、自分から『GKがやりたいです』と立候補しました」と甲斐。

甲斐の場合はむしろ「フィールドが嫌」だった。監督から「GKをやめてフィールドでやれ」と何回言われても、彼はGKに固執した。

「正直、走るのが好きじゃないからGKがいい、というのもありました(笑)」



のちに「10年に一人の逸材」と謳われることになる甲斐。なにも走るのが嫌いということだけがGKに固執した理由ではなかった。純粋にGKが面白かったのだ。

「ハンドのGKは、試合を支配することができるんです」と甲斐。「決定的なシュートを止めれば会場が盛り上がり、流れを変えられる。一番目立って、勝敗を決めるポジションなんです」

サッカーGKの西川も同じようなことを口にする。

「いくら攻められいても、得点を許さなければ流れは変わります。GKはワンプレーでゲームを変えることもできるんです」



GKはシュートを打たれるだけの受け身の存在。そんな先入観が、GKを敬遠してしてまう理由にもなっている。

しかしどうやら、この孤独なポジションには、GK以外のフィールド・プレーヤーが知らない「特別な喜び」が潜んでいるようだ。



「色々な駆け引きができるポジションだな、という気はしますね」と西川(サッカー)。「こっちからシュートを誘い込むというか…」。

「オレの中で、キーパーは『受け身じゃない』ですね。シュートは自分でタイミングをはかって、自分から止めに行く。打たせている感覚です」



GKが受け身でないチームは、GK主導でゲームが組み立てられる。

サッカーやアイスホッケーと違って、ハンドボールは1試合で50〜60本ものシュートが飛んでくる。それゆえに「駆け引き」も物凄く多くなる。

「そこで受けにまわると相手に先手を取られるので、意図的にコースを空けたりして、シュートを誘うような駆け引きはしますね」と甲斐(ハンドボール)。



「氷上のボス的存在」

アイスホッケーの福藤は、GKというポジションをそう感じている。

ホッケーのゴールは小さいために、大げさに言えば「すべてが取れるシュート」。それゆえ、GKが崩れたら試合は簡単に決まってしまうのだ。



GKの奥深さは、GKに「特別な喜び」を与えている。そして、その喜びを知ったGKは「練習や試合を離れても、彼らはGKであろうとする」。

「色々と話をしながらも、人間を観察しているところはありますね」と福藤(アイスホッケー)。「GKって常に周りを見ているんです。人のクセとか動きとかを観察したくて、トレーニングでも一番先頭ではなく一番後ろ、ミーティングでも一番後ろに座る」。

ゲームの最終局面において、相手の性格を知っていることがGKには有利に働く。それは、「大事な局面になるほど、相手は一番自信のあるところにシュートを打ってくる」からだ。



この「GKであろうとする感覚」は、西川(サッカー)も共有している。

「みんなでワイワイしている時も、この選手は飲むとこうなるんだとか、冷静に見ている自分がいます」

「それって、変わってますか?」



一様に「変わり者」と呼ばれがちなGKたち。

その魅力に取り憑かれた選手たちの憧れは、カズ(三浦知良)から川口能活へと変わっていく。

そして、彼らGKたちこそが、ゲームの奥深い喜び、そして人間の深みをより理解しているのかもしれない…。






ソース:Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2013年 1/24号 [雑誌]
「GK人生という選択 西川周作・福藤豊・甲斐昭人」

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