2013年1月13日日曜日

「情熱に年齢は関係ない」、三浦知良(サッカー)。



リスク

選択には「リスク」がともなう。



2012年、キングカズこと「三浦知良(みうら・かずよし)」は、「リスクある決断」を迫られていた。

「フットサル日本代表」に選ばれた時だ。

それはすなわち、サッカーから一時離れるという決断。折しも、所属する横浜FCはJ1昇格争いの真っ只中に置かれていた。



少し逡巡したけれど、結局カズは「フットサル」を選択する。

そこにあったリスクは、横浜FCを空けることが「チームにも自身にもプラスにならないこと」。そして、フットサル日本代表が「思うような結果を残せなかった時の痛手」である。



それでも、カズはフットサルという選択に対して、恐れは抱かなかったと言う。

「もし、フットサル日本代表がグループリーグも突破できなかったらボロクソに言われるだろうけど、それより、やらない方が後悔すると思ったんです」とカズ。

負けてボロクソに言われることが嫌でフットサルに行かなかったということの方が、カズ自身にとっては「一番許せないこと」だった。彼の選択肢の中では、「怖がって挑戦しない」という項目が「一番の後悔」に繋がってしまうのである。



結果的に、フットサル日本代表は史上初のグループリーグ突破、決勝トーナメント入りを果たし、大成功に終わる。

それでも忘れてならないのは、「まったく逆の状況だって十分にあり得た」ということである。最悪の場合、最も注目されていたカズがボロクソに叩かれていたかもしれないのである。







こんなカズの人生は「リスクの高い選択」の連続である。

人生最初にして最大の選択は「15歳」の時。高校を中退してまでブラジルへ飛んだ時のことだった。もっとも、15歳のカズはリスクを感じていなかった。というよりも知らなかった。

「当時の僕は、なんで大学を出るとメシを食っていけるのかを理解していなかった。公務員の意味も分からなかったし、そういう職に就けば生活が安定するなんていうことも知らなかった」



15歳のカズは、「ブラジルに行ってプロになれば、サッカーをやりながらお金をたくさんもらえる」、そして、「何千万ももらえば、利息で食っていける」という夢のような甘い考えしか持っていなかった。

「プロになるためにブラジルへ行く、それしかなかった」とカズ。

当時、高校のサッカー部の監督は「ブラジルのプロなんて99%、お前には無理だ」と親切な忠告をくれていた。しかし、「そんな言葉は僕の耳には入って来なかったんです」とカズは振り返る。



幸いにも、ブラジルで頭角を現したカズはその後、日本サッカー界の寵児となる。日本への帰国後のカズは、Jリーグで抜群の活躍をしながら、日本代表を牽引し続けることになる。

しかし1998年のフランスW杯へと向かう最中、カズは「まさかの日本代表、落選」…。カズは「悔しさにまみれる」ことになる。







ここで終わるか…、と思われたカズ。

しかし結果はその真逆だった。この時の悔しさが、「のちの信じられないほど長きに及ぶサッカー人生」の出発点となったのだ。

「クロアチアがすべての始まり」

そうカズが言うように、代表落選後のカズは新天地クロアチアで「果てしなきサッカー人生」を再スタートさせるのである。

「日本とは違うところで、ゼロからやりたい気分だった」とカズ。



クロアチアに渡ったカズは、かの地で「いくつかの宝物」を得る。

たとえば、クロアチア代表のゴッチァ(ゴラン・ユーリッチ)からは、「サッカーを楽しむと同時に、人生を楽しむ姿勢」を教わった。

そして何より、「情熱に年齢は関係ない」ということをゴッチァは教えてくれた。そしてこの気づきは、その後のカズを大いに勇気づけていくこととなる。







現在、46歳を迎えたカズ。

本来、引退していておかしくない年齢であり、さすがのカズも「20代の時のような広き門は、もう持っていない」。昨シーズンの公式戦フル出場は、1試合も叶わなかった。

それでもカズの情熱ばかりは衰えない。「ひたすらにゲームを渇望する」。



「一番大事なのは、試合に出て活躍したいという気持ち」

そのためだけにやっている、とカズは熱く語る。

「若い選手を頑張らせるために僕はやっているんじゃない。僕の背中を見せるためにやっているわけでもない」

カズはあくまで、「自分が試合に出て活躍したい」からこそプレーを続けているのである。



その「信じられないほど長いサッカー人生」の中で、カズはリスクのある決断を下し続けてきた。

しかし、「今はプレーヤーの一択しかない」とカズは断言する。「とにかく、気持ち良く思い切りサッカーに集中できて、試合に出られること、頭のなかにはこれだけしかないんです」。



30代半ばにして、力を残したまま引退を選ぶ選手たちが少なくない中、カズばかりは46歳になっても情熱に満ちている。まさにゴッチァの言う通り、「情熱に年齢は関係ない」。

「もう、やれることろまでやってやる…!」

カズの中では、この気持ちが未だ一度として切れたことがない…。






ソース:Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2013年 1/24号 [雑誌]
「冒険してこそ人生 三浦知良」

0 件のコメント:

コメントを投稿