2014年、サッカーW杯ブラジル大会
アジア最終予選・グループB
日本(グループ首位) vs オーストラリア(同3位)
日本が「引き分け」以上でW杯出場が決する一戦。
試合は両チームともに、一進一退の攻防。前半は「0 - 0」で折り返し、後半も両者決め手に欠く膠着状態が依然として続く。
「引き分けか…」
と思われた後半37分、オーストラリアのひょんなセンタリングが、日本ゴールへと吸い込まれてしまう!
先制を許した日本。もう残り時間も少ない。このまま「0 - 1」で負けてしまえば、ホーム日本(埼玉スタジアム)でW杯出場を決める絶好のチャンスを逸してしまう!
6万を超える観衆の脳裏には、イヤな記憶も思い起こされる。
W杯予選で、日本はオーストラリアに一度も勝ったことがなかったのだ(5戦中、2敗3引き分け)。
そうこうするうちに、時計の針は容赦なく進み、ついに後半ロスタイムへ。
強引にシュートにいく日本のエース「本田圭佑」。
が、ボールはディフェンスの出した足に当たり、ゴールの枠をとらえきれない。それでも、「コーナーキック」という格好のセットプレーのチャンスを日本は得る。
コーナーから、ちょんと蹴られたショート・コーナー。ボールは本田の足元へ。そして本田は、そのボールをペナルティー・エリア内で待つ香川真司へとクロスを送る。
と、その時
「ハンド!」
本田の蹴り込んだボールは、オーストラリアの「マシュー・マッケイ」の腕に当たった。
「ハンド」のホイッスルに、頭を抱え込むマシュー。そして審判に猛烈抗議。だがその行為がイエローカードに。
「PKだ!」
最後のチャンス。土壇場でPKを獲得した日本。
ボールをつかんだのは本田圭佑。
「(実況)本田が勝負を決める覚悟を見せています。アディショナル・タイムは3分」
本田がボールを据え置いた時、手元の時計は後半45分を回っていた。
「(実況)この本田のPKに、日本のワールドカップの出場は託されました。日本中の想いが、この本田の左脚に宿ります」
ベンチの選手たちも、みな身を乗り出し、肩を組む。彼らの目はこう訴えている。「頼む! ケースケ!」。
天を仰ぎ、息を吐く本田。
ゆっくりと2、3歩踏み出したあと、徐々に加速し、そして、蹴った!
運命のボールは、赤いキーパーの真正面へ…!
だがオーストラリアのキーパーは不幸にも、本田が蹴ると同時に「左」に飛んでいた。
まるで、日本にワールドカップ出場への「道」を開けるかのように…!
「決まったーーーーーーっ!!!!!!」
雄叫びを上げる本田。だが、その雄叫びは大観衆の大声援にすっかりとかき消される。
ピッチ上の日本代表は、本田を押し潰すように次々とその上に重なり合う。
「本田が決めたーーーーーーっ!!!!!!」
メンバーたちが、本田の上をどいたあと、身を起こした本田はひざまずいたまま両手を高らかに天へとかかげ、ふたたび天を仰ぐ。
「(実況)日本のエースが、この土壇場でプレッシャーに打ち克って、見事に、PKを決めてくれた!」
大観衆は、力の限り「日の丸」の旗をふる。
「(実況)いやー、あの場面で『ド真ん中』、蹴れますかね、普通の人ならば」
「(実況)ここで、試合終了のホイッスルーーーッ。日本が5大会連続、ワールドカップ出場を決めましたー!
日本のエースが土壇場でPKをもたらし、そしてPKを決めた! 日本のエースが、日本のワールドカップ出場へと導きましたー!」
「最後まで勝負を捨てていなかったですね。最後はエースが決めてくれました!」
「さすが本田だね。彼がシュート打ったところから始まってるから。あそこで本田が『ゴールに向かう姿勢』を見せたからこそ、PKが日本に来たわけですよ」
以下、試合直後、本田圭佑のインタビュー。
「(インタビューアー)どんな気持ちで蹴って、そしてゴールした瞬間、どんな思いでしたか?」
「(本田)いやー、皆さんがかなりプレッシャーかけてくれたんでね(会場:笑)。勝利できなかったことは残念なんですけど、ワールドカップ行くことが決定して良かったなと思います(会場:大歓声)」
「(インタビューアー)それにしても、先制をされて、後半アディショナル・タイムまで入ってきて、本当に苦しい戦いになりました。どんなことを考えながらプレーしていたんですか?」
「(本田)少しアンラッキーな形で失点してしまったんで、残り短かったんですけど、真司(香川)と話しながら、強引にオレらがスペースをつくって相手のゴールに迫っていこうという話をしてたんで。結果的にちょっとラッキーなPKだったんですけど、それでもしっかりと勝ち点1を取れたので良かったです(会場:大歓声)」
「(インタビューアー)そしてPK。ド真ん中」
「(本田)けっこう緊張してたんでね。真ん中に蹴って取られたら、『まあしゃーないな』というぐらいの気持ちで蹴りました」
サッカー解説者の山野孝義さんも、本田の強心臓には驚くばかり。「よくねぇ、真ん中に蹴ったと思いますね。本田しか蹴れなかったでしょ、この状態で」
「(インタビューアー)そして日本の10番、香川選手です。ワールドカップ出場が決まった瞬間、どんな気持ちでした?」
「(香川真司)最後ほんとハラハラさせたので、圭佑(本田)が決めてくれて、ホッとしています」
「(インタビューアー)続いて長友選手です。どんなお気持ちですか?」
「(長友佑都)うれしいですけど、僕ら本気でワールドカップ優勝狙ってるんで、これはほんとに通過点だと思います」
「(インタビューアー)最後の本田選手のPKはどんなふうに見つめてたんですか?」
「(長友)まあ圭佑はね、メンタル強いんで、あいつなら絶対決めてくれると思ってたんで、さすがです」
オーストラリアと引き分けた日本は、開催国ブラジルを除いた予選出場国では「一番乗り」となるワールドカップ本大会出場を決めた。
ホゾを噛まされたのはオーストラリア。目前の勝利が、後半ロスタイムのPKでこぼれ落ちていったのだ。
「日本キラー」の異名をとっていたFWのケーヒルは「最後は運もなかった。PKを許したのは受け入れがたい。ただ、サッカーでは起こりうることだ」と肩を落とした。
オーストラリア代表のオジェック監督は「ホンダはピッチに立てば、常に違いを作り出せる選手。警戒を怠ってはならない。そういうことだ」とコメントして去った。
(了)
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ソース:AFP通信
「終盤に本田がゴール!日本代表がW杯本大会出場を決める」
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