2012年12月23日日曜日

本田圭佑の「ノー」。先を走る「自分」



「本田圭佑が口にする『ノー』は、ネガティブな否ではない。オバマ大統領の『Yes!』並みの『肯定』だ」

たとえば南アフリカのW杯(2010)前、日本代表の岡田監督は「ベスト4が目標」と発言して、世界の失笑を買っていた。そんな中、本田ばかりは「ベスト4ではなくて、『優勝』を目指してもいい」と逆方向から否定した。



「ネガティブな要素をどうやってかき消すかということに集中して、良いところだけを見ようとして前に進んで行かないと…。オレは何でもポジティブにやるからさ」と本田。

「マイナス × マイナス = プラス」

本田はマイナスの思考を打ち消すために、あえて「否定を使う」のであった。



本田の中には「絶対的な本田」がいる。

それは本人曰く「先を走る自分」であり、その本田はブラジルW杯で優勝しているし、世界最強クラブ、レアル・マドリード(スペイン)の10番をつけている。

「自分がイメージする自分というのは、だいぶ先を走っているんでね。それに追いつこうとするには、チンタラやってられない。強引なことをしていかないと」と本田。



確かに人間という生き物は、頭の中で想像したことしか実行に移せないのかもしれない。

だから本田は言うのである、「イメージできたら、ほぼ成功」と。



金髪で両腕に時計を光らせる本田は、人々に何をイメージさせようとしているのだろう?

本田曰く、「サプライズは自分の性格の一部。驚かすことにこだわっている。『いつまで経っても読めへん』というのは最高の褒め言葉」。

本田が用意するサプライズは、一般常識を強引にひっくり返そうとしているかのようである。

「慣れられたくない。つねに上を行きたいと思っている」と本田。



「クール」な表の顔、変人と紙一重の「傍若無人ぶり」、ときには「サービス精神にあふれたイタズラ小僧」…。本田という人間は「複数の顔」に彩られている。しかし最近、彼は「ピッチ内とピッチ外の自分を一致させたい」と考え始めているという。

「今までは、プレーはプレー、サッカーはサッカー、オレはオレ、みたいな感じで別モンやって切り離していた。でも、そうじゃなくて、自分の『人間性』をプレーで伝えていきたい」と本田は語る。



振り返れば2010年の南アフリカW杯の直前、本田は「豹変」していた。

「本田は突然、試合2日前に一気に集中を高め、チームメイトすらも近づきがたい鬼気迫るオーラを放つようになった」

そして、ピリピリとした緊張感で尖っていたその本田は、W杯での2ゴールを生むのである。



「自分としては、試合に向けて2日前くらいにスイッチを入れるやり方に変えようとしていた。最初は意識しないとできなかったから、その作業をかなり徹底していた」と本田。

それが今は、「あえてスイッチを入れることも、切ることもしない」と本田は言う。それは「意識しなくても、自然にできるようになったから」とのこと。



なるほど。本田が「複数の顔」を見せるのは、「統合への過程」なのかもしれない。つねに自分のやり方を破壊して、新たなやり方を創造している本田。その哲学は「破壊と想像」とよく言われる。

しかし彼に言わせれば、ベースとなっている哲学は「常にブレない」。場面に応じて言い回しや表現は変われども、哲学は「首尾一貫している」と彼は言う。



「基本的に、同じことしか言わんのよね。それをユーモアを交えて、違う言い回しで話したりはするけど、結局のところ何も変わらへんから」と本田。

「プレーと性格が全然違うやん!っていうサッカー選手がたくさんいるよね。でも、それやったら自分はあかんと思っている。それだと、みんなに『オレ』っていうものを伝えている意味がないから」と本田は語る。





かつて、アップルの革命児スティーブ・ジョブズはこう言った、「間違った方向に進んでいないかを確かめるために、1,000の事柄に『ノー』と言わなければならない」と。

日本サッカー界の革命児たる本田も同様、「先を走る自分」に追いつくために、それを妨げようとする1,000の事柄に彼は「ノー」と言う必要があるのかもしれない。

そして、その「1,000のノー」先にこそ、誰もが納得する大きな「Yes!」があるのだろう。



とあるイベントにて、本田は52分も遅刻しておきながら、待っていた子供たちに「人の話を聞く態度がなっていない」と説教をたれていた。そして滔々と「夢を持つことの大切さ」を語り出す。

話が終わった後、サングラスをかけたままボールを蹴ってみせた本田。子供たちに大喝采を浴びて、満足気に会場をあとにしたという。



一見、支離滅裂。「こんな変な人、滅多にいない」。しかしそれでも、彼の言わんとするところはきっと子供たちには伝わったのであろう。

「本田圭佑っていうものをドンドン感じていってもらえたらなと思う。自分がどう思ってもらいたいかっていうところと、みんなの評価が一致したら本望やし…」と本田。



「オレという本田」と「プレーする本田」、そして本田の提示する「自分」と我々の感じる「本田」、それらのすべてが一致した時、日本代表はW杯に優勝しているのかもしれない。

そしてその時の本田は、きっとレアル・マドリーの10番をつけているのだろう…。





ソース:Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2013年 1/10号
「人間・本田圭佑をプレーで伝えたい」
「本田圭佑とスティーブ・ジョブズ」

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