2013年9月20日金曜日
新怪物「荻野公介」の人間らしさ [水泳]
2013世界水泳バルセロナ
松岡修造は語る。
「フェルペスやロクテのように『怪物と例えられる日本人選手』が出てくるとは、予想だにしなかった」
その「怪物」は現れた。
8日間7種目、全17レースに挑んだ18歳
「荻野公介(おぎの・こうすけ)」
世界を知る男、松岡修造でさえ驚愕した。
「彼の考えは僕はおろか、今後の日本人アスリートのメンタリティー、指導者の考え方さえも変えてしまうほどの衝撃だった」
その荻野は大会前、挑むようにこう語っていた。「日本人はできないなんていう、松岡さんが持っているような常識を覆したかった。やれるものは誰でもやれますから」
初日の男子400m自由形、荻野公介はいきなり「銅メダル」を獲得した。
松岡が驚かされたのは、ゴール直後の荻野の行動だった。
「彼はガッツポーズも笑顔もなく、誰よりも早くプールから上がり、僕のいるプールサイドのインタビュー・エリアにやって来た。”おめでとう!”と声をかけると、彼は『反省して残りの夏を悔いのないように泳ぎたい』と、まるで敗者のような言葉だった」
「なぜ、一目散にプールから上がったのか」と松岡が聞くと、
「とにかく次のレースがあるので意識を切らしたくなかった。本能的に動いてしまったんです」と荻野は答えた。
荻野の頭の中は、一つのレースが終わったその瞬間、次のレースに切り替わっていた。
1日に4レースを戦う日もあった。
次のレースまで1時間しかないという時もあった。
そんな時でも、荻野はすぐさまサブ・プールに飛び込み、1.5kmほども泳ぎ続けていた。疲労した筋肉にたまった乳酸を、少しでも早く取り除くためだった。表彰式が終われば、また泳ぐ。
「連日何度もインタビューしたが、彼はどんな時でも冷静だった」と松岡は振り返る。
「さらには、一度も息を切らしながら話したことがなかった」
そんな超人でも、最終日、唯一「彼らしくないレース」があった。
400m個人メドレー
この種目は、ロンドン五輪で銅メダルを獲得した荻野公介の、最も得意とする種目のはずだった。ましてや、今回の世界水泳、世界王者のロテクが不在という舞台。みな荻野公介の「金メダル」を確信していた。
だが、荻野は失速した。
その代わりに勢いを増したのは、同世代のライバル「瀬戸大也(せと・だいや)」。
「日本人初の金メダル」を獲得したのは、この瀬戸大也だった。
松岡はその時のことを、こう振り返る。
「瀬戸選手の歓喜の声を聞く目の前で、信じられない光景を目にした。荻野選手が倒れこんでいたのだ。その光景は、今大会初めて、荻野選手の『人間らしさ』を感じた瞬間だった」
ようやく起き上がった荻野は、こう言った。
「これが五輪じゃなくて良かった…」
「負けた時にこそ、自分が成長できるものがある」
かつて荻野公介は、そう語っていた。
「悔しさの中にも成長できる部分があるって考えると、勝ち以上の負けの価値があるんです」
しかし悔しい。
「絶対的な力が欲しい!!」
最後に荻野は、そう叫んだ。
(了)
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ソース:Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2013年 9/19号 [雑誌]
「新怪物・荻野公介こそが、日本人の限界を越えていく」
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