「前手(まえて)ギュン打法」
それが、ソフトバンクの4番「松田宣浩(まつだ・のぶひろ)」の必殺打法だという。
「ボールを身体の前のほうで捉えて、手でギュンと押し込む。だから前手ギュン打法なんです」と松田は自信満々である。
どうやらこのネーミングは、韓国の強打者、キム・テギュン(手ギュン?)の名前の「もじり」らしいのだが…。
彼は、いわゆる「長島族」の一人。明るい天然キャラと、独特の言語感覚とを併せ持つ好人物だ。
「ボールを長く見て、前で打つ」
松田は禅問答のようなことを、平気で言う。長く見るためには、前でなくて引きつけてから打つのが筋のような気もするが、松田の場合は決してそうではない。
「ボールを長く見られないと差し込まれるから、差し込まれる前に打たなきゃいけないんです。だから長く見て、前で打つんです。いいんです。この感覚で」
松田は自信たっぷりに、そう断言する。だから、きっとそうなのだ。
打者として非凡な才をもつ松田は、3月のWBC(世界大会)にも招聘され、侍の一人としてバットを振った。
打順は9番、三塁手。7試合に出場して、ホームラン1本を含む7安打5打点という活躍。一番の満足はやはり、「オランダ戦でのホームラン」。
「日本代表として打ったホームランですからね。格別ですよ」と松田は喜ぶ。
だが、日本代表は惜しくも準決勝で敗れた。3連覇がかかっていた大会だっただけに、松田も相当に悔しかった。
それでも、松田は下を向かなかった。「悔しい思いがあったんで、かえってすんなりシーズンに入っていけましたね」と松田はいたって前向き。「WBCは僕にとってプラスの意味しかないですよ」
悔しいという思いが、彼をWBCで燃え尽きさせずに、国内で待っていたペナントレースへの起爆剤になったというのであった。
松田の玉に瑕(きず)は、ケガの多さ。
「特に手の骨折が多く、昨年までの7シーズンで、4回も左右の手を骨折している。死球も多い松田は、140試合以上出たシーズンが2回しかない(Number誌)」
死球(デッドボール)を食らうほど、松田の打法は積極的にボールを捉えにいく。だから、プロに入った頃から比べると、だいぶベースから離れて立つようになった。
「それで外角に届くのかって思いましたけど、かえって外の変化球を強引に追いかけなくてよくなりましたよ」と松田はあくまで前を向く。
ところで松田は、時おりウェインティング・サークルや打席で、「おっとっと」という具合に「ケンケン」を見せることがある。
あれには、どんな意味があるのか?
「あー、あれは好調のバロメーターなんですよ。ケンケンが出るときは、身体のバランスがとれている時なんです。だから、空振りの後でもあれが出ると、良いスイングができているということです。バットに当たっていなくても(笑)」
好調のサインという松田のケンケン。
それがどこかユーモラスに映るのは、松田という個性の表れなのかもしれない。
Number誌の写真撮影を終えた松田は
「100点!」
と大声で自己採点し、思い切り白い歯を見せて笑ったという。
「打って守れて走れるサード」
それが松田の目標とのことだが、それは
「歌って踊って笑える千両役者」にも聞こえるような…。
(了)
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ソース:Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2013年 5/23号 [雑誌]
「超感覚バットマンの大いなる野望 松田宣浩」
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