スーパーのキッズコーナーにあった、お金を入れれば動く電動の乗り物。
その子は、止まったままの乗り物にのって、まずは遊んでいた。
翌日、その子は、他の子どもが「動いている乗り物」に乗っている姿を見た。
さっそく、その後に乗り物に乗るも、もう止まってしまっている。
さらに翌日、その子はまた、その乗り物のところに言った。だが、ジッと他の親子連れの姿を見ている。
すると、何かに気づいた。
嬉しそうに父親のもとに駆け寄ってきたその子、「お父さん! あそこにお金を入れたら動くんや!」
「おぉ、よう見抜いたな!」
父親は一緒に喜んでやる。そして、その日、その子は7回連続で、心ゆくまでその乗り物に乗せてもらった。
この父親は田中章二、子どもは田中和仁。ロンドン・オリンピックで三兄弟そろって出場した田中兄弟の父親と長男である。
父・田中章二は言う、「大人に求められるのは、子供が自ら考え、答えを出すのをジッと待ってやること。端から正解を教えてしまっては、本人のためにならない」
彼は、ジュニア育成を目的とした「和歌山オレンジ体操クラブ」で、40年以上、子どもたちの指導を続けている。
「そもそもスポーツとは、どんな種類であれ『遊び』の一つではないかと私は思う。本来、遊びにバツは必要ない」と指導者・田中は言う。
田中氏の現役当時は、「どんな技でも千回やれば身体に染み込む」と言われていたそうだが、彼はそれを否定する。
「完成していない技を何回練習しても、身体を痛めつけてしまうだけ。失敗が多すぎれば、悪いほうのイメージがインプットされてしまう。だから私は、新しい技を教える時は一日3回までとしている」
「体操という芸術は、一瞬にして消える。だが、人の心に残像はのこる」
それが彼の想いである。
(了)
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ソース:致知2013年6月号
「体操は芸術であれ 田中章二」
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