2015年4月23日木曜日
「勝ってラグビーの歴史を大きく変える」 [五郎丸歩]
昨年(2014年)11月
ジャパンは「大魚」を逃した。
ラグビー王国ニュージランドの精鋭、「オールブラックス」との第2戦で 18 - 20 と惜敗したのだった。
後半37分、オールブラックスに逆転トライを奪われたとき、五郎丸歩(ごろうまる・あゆむ)は膝をついてうずくまった。
印象的な場面だった。その姿がテレビ中継で大写しになった。
五郎丸歩「絶対に勝ちたかったんです。いい試合をした、というだけじゃなく、1点差でもいいから勝って『日本ラグビーの歴史を変えたい』と思って試合に臨んだから、本当に心の底から悔しかった」
ラグビー代表の「大黒柱」五郎丸歩は、唇を強くかんだ。
その時点で、ラグビーW杯開催まで1年をきっていた。
「W杯では、100%、勝つことだけを意識しています」
五郎丸は言う。
「僕たちが目指しているのは、W杯でプレーすることではなく、そこで勝って『日本ラグビーの歴史を大きく変えること。勝たないと、日本のラグビーは変わりませんから」
五郎丸はオールブラックスに敗れたあの日、観客席の日本人の多くが「オールブラックスのユニフォーム」を着ていることを苦々しく思っていた。
五郎丸歩(ごろうまる・あゆむ)
ラグビーをはじめたのは3歳だった。5歳上の長兄、1歳上の次兄とともに3人兄弟で、みやけヤングラガーズ(福岡市)というラグビースクールに通いはじめた。
高校2年のときエリートアカデミーに選ばれ、U17日本代表に選出された。
五郎丸歩「日本でU17の代表を強化しはじめたのは僕らの世代が最初なんです。山田章仁や畠山健介と一緒に、世界と戦う経験を積ませてもらいました。U19世界選手権で堀江翔太や1学年上の田中史朗さんとも一緒になって、世界7位になりました」
そして早大時代、とんとん拍子でラグビー日本代表に選ばれ、19歳1ヶ月、ウルグアイ戦で代表初キャップを獲得した(2005)。
しかし以降、五郎丸は代表から外れ続ける。定着かなわず、2007年のフランス、2011年のニュージランド、2つのW杯を逃した。
五郎丸が不動のレギュラーとなるのは、ラグビー日本代表の新監督として「エディー・ジョーンズ」が就任してからだ。それから3年間、五郎丸は日本代表33のテストマッチのうち、じつに32試合を副将として戦っている。
エディー監督は言う。
「ゴロー(五郎丸)は疑いなく、日本でベストのフルバックで、ベストのゴールキッカーだ。体重100kgのバックス・プレーヤーは日本ラグビーでは初めてでしょう。しかも、スプリントの走力もまだ伸びている。もっともっとすごい選手になれるよ」
五郎丸の正確なゴールキックは、ジャパンに多くの得点をもたらしている。日本代表での通算得点は532(史上最多)。「五郎丸といえばゴールキック」といわれているほどだ。
そのゴールキックの原点は、早大1年のときにさかのぼる。「世界一のキッカー」と謳われたジョニー・ウィルキンソン(イングランド)の指導を受けたのだった。
五郎丸歩「早大グラウンドでキック教室を開いてくれたんですが、実際に教室がはじまる1時間も前からグラウンドに出てきて、延々とキック練習を繰り返していたんです。『世界一の名選手が、そこまで地道に練習する』ということに感銘を受けました」
エディー率いる日本代表は一時、世界ランクで9位まで上昇。W杯8強入りを現実的な目標としている。だが、そこから先の道は鋭く切り立っている。
五郎丸歩「エディーはうまい表現をするんです。『ジャパンは2012年から登山をしている。最初のころは道も平坦で、酸素も充分にあって順調に登れたけれど、高度が上がるにつれて傾斜もきつくなって、酸素も減ってきた。雪が降ることもある。そういうエリアにこれから入る。その険しい道をリーダー陣が引っ張って、山頂を目指すんだ』と」
日本の選手は子供のころから「監督の指示に従ってプレーすること」に慣らされている。しかし、それでは世界で戦えない。
五郎丸歩「答えを与えられることを待つんじゃなく、『自分たちで解決策を見つけていけ』ということなんですね。だからエディーは、いいプレーをした選手に『ダメだ!』と言ったりする。これは正直キツいです」
背番号15(フィフティーン)をつけた雄大な体躯。
五郎丸は、チームの一番後ろから声を出し続ける。
進化をつづける日本代表の最後尾には、この「大黒柱」が立っている。
五郎丸歩「最近では、日本代表の試合でスタンドが満員になるようになったし、桜のジャージ姿で応援する人も増えました。ものすごく期待を感じます。すこし変わってきたかな」
(了)
ソース:Number(ナンバー)870号 二十歳のころ。 (Sports Graphic Number(スポーツ・グラフィック ナンバー))
五郎丸歩「フィフティーンの約束:新たな時代をつくりたい」
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