「じつは本物の野球を見たのは日本に来てからなんです。最初のうちは何をやっているのかサッパリ分からなかった(笑)」
モンゴル生まれの大横綱・白鳳は、そう言って笑う。
来日から13年、今では大の野球好きになった。生国モンゴルでは野球協会の名誉会長を務めるほどだ。
「稽古後にキャッチボールをすることもある。ピッチャーになって投げたボールがキャッチャーのミットに収まると『バシーン』。その音が気持ちいいね」
打つ方は?
「ゴルフは右で野球は左打ち。大きな当たりを狙うよりは、イチロー選手のように足の速いシャープなバッターです(笑)」
まさか体重155kgの横綱が俊足バッターとは…。
じつは白鳳、「力まかせ」というのが好きではないそうだ。
「それは私の相撲も同じなんです。下半身の動きの良さで体重を上手く利用する。力まかせに攻めるだけでは限界があるので…」
力ばかりに頼らないという白鳳は、2010年の春場所、全勝優勝を決めた後に「思いもよらぬこと」を言っていた。
「自分は勝たないように相撲を取っています」
これはどういうことなのか?
「『後の先』に取り組み始めたんです。立ち合いで相手より一瞬遅れて立つ」
そこからでも落ち着いて自分の形にもっていければ、どんな相手にも対処できるのだという。
「勝とうとすると強引になり、どこかに落とし穴があるんです」
白鵬が落ちた「落とし穴」というのは、2010年の11月場所、連勝記録が双葉山の69連勝にあと6つと迫った一番だった。
「立ち合いからいい体勢になったので、その瞬間に『勝った』と思ってしまった。ところが相手の稀勢の里はまだ土俵に残っている。それで頭が真っ白になってしまったんです」
結局、白鳳の連勝街道は63でストップしてしまった。
「相撲の妙は、心と体のバランス」
力まかせの強引さは、その妙を崩してしまう。
「勝たないように相撲をとる」という言葉は、相手に勝つために「勝とうと思ってはいけない」ということのようだ。
「勝つことを忘れて土俵に上がる。そこに白鳳という横綱の奥深さがある(Number誌)」
横綱は負ければ引退しかない。それでも白鳳は「勝ちを忘れる」と言うのである。
勝敗を越えて目の前の一番に向かい合う。常勝とは、そうした積み重ねの先にあるものなのだろうか。
「今でも『後の先』で取れる会心の相撲は、一場所に2〜3番あるかどうか。でも、だから面白いんです」と白鳳。
最後にこれからの夢を。
「モンゴル初のプロ野球選手。巨人の選手ですね(笑)」
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ソース:Number (ナンバー) WBC速報号 2013年 3/30号 [雑誌]
「常勝を背負う者の哲学 第69代横綱・白鳳翔」
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