2013年3月30日土曜日

横綱・白鳳は俊足バッター?



「じつは本物の野球を見たのは日本に来てからなんです。最初のうちは何をやっているのかサッパリ分からなかった(笑)」

モンゴル生まれの大横綱・白鳳は、そう言って笑う。

来日から13年、今では大の野球好きになった。生国モンゴルでは野球協会の名誉会長を務めるほどだ。



「稽古後にキャッチボールをすることもある。ピッチャーになって投げたボールがキャッチャーのミットに収まると『バシーン』。その音が気持ちいいね」

打つ方は?

「ゴルフは右で野球は左打ち。大きな当たりを狙うよりは、イチロー選手のように足の速いシャープなバッターです(笑)」

まさか体重155kgの横綱が俊足バッターとは…。



じつは白鳳、「力まかせ」というのが好きではないそうだ。

「それは私の相撲も同じなんです。下半身の動きの良さで体重を上手く利用する。力まかせに攻めるだけでは限界があるので…」

力ばかりに頼らないという白鳳は、2010年の春場所、全勝優勝を決めた後に「思いもよらぬこと」を言っていた。



「自分は勝たないように相撲を取っています」

これはどういうことなのか?

「『後の先』に取り組み始めたんです。立ち合いで相手より一瞬遅れて立つ」

そこからでも落ち着いて自分の形にもっていければ、どんな相手にも対処できるのだという。

「勝とうとすると強引になり、どこかに落とし穴があるんです」



白鵬が落ちた「落とし穴」というのは、2010年の11月場所、連勝記録が双葉山の69連勝にあと6つと迫った一番だった。

「立ち合いからいい体勢になったので、その瞬間に『勝った』と思ってしまった。ところが相手の稀勢の里はまだ土俵に残っている。それで頭が真っ白になってしまったんです」

結局、白鳳の連勝街道は63でストップしてしまった。



「相撲の妙は、心と体のバランス」

力まかせの強引さは、その妙を崩してしまう。

「勝たないように相撲をとる」という言葉は、相手に勝つために「勝とうと思ってはいけない」ということのようだ。



「勝つことを忘れて土俵に上がる。そこに白鳳という横綱の奥深さがある(Number誌)」

横綱は負ければ引退しかない。それでも白鳳は「勝ちを忘れる」と言うのである。

勝敗を越えて目の前の一番に向かい合う。常勝とは、そうした積み重ねの先にあるものなのだろうか。



「今でも『後の先』で取れる会心の相撲は、一場所に2〜3番あるかどうか。でも、だから面白いんです」と白鳳。

最後にこれからの夢を。

「モンゴル初のプロ野球選手。巨人の選手ですね(笑)」








関連記事:

「勝つべくして勝つ」。存在そのものが横綱の格

新旧横綱、光と陰。日馬富士と白鵬

「ツイッター、日馬富士、卵焼き」。相撲人気、復調へ



ソース:Number (ナンバー) WBC速報号 2013年 3/30号 [雑誌]
「常勝を背負う者の哲学 第69代横綱・白鳳翔」

0 件のコメント:

コメントを投稿