石川遼が発する言葉に、「物足りなさ」を感じるようになったのはいつの頃からだっただろうか…?
「態度が横柄になったわけではない。ただ、どこか予定調和で、かつてに比べてどうも面白みを欠くようになっていた(Number誌)」
「かつて」の石川遼のコメントは冴え渡っていた。
2009年夏のサン・クロレラクラシック。初日から首位独走の石川。3日目終了後に「完全優勝に大手ですね」という記者に、石川はこう返した。
「王手はおこがましいでしょう。僕には将棋の『歩』が『と金』に成ったぐらいです」と。
幼い頃から「笑点」を見て育んだという、彼らしい当意即妙のコメントであった。
「かつて」の石川は、不躾(ぶしつけ)でもあった。
「不甲斐ないショットに叫び声を上げ、クラブを投げつけて問題視されたこともあった(Number誌)」
こうした行為はマナー上は許されるものではない。しかしそれは、アスリートたちが内に秘める膨大なエネルギーの発露でもあった。しかし、今はこうした仕草もすっかりと影を潜めている。
6歳でゴルフを始めたという石川遼。
15歳だった2007年、マンシングKSBで日本ツアー「史上最年少優勝」。プロ転向後2年目の2009年には、4勝を挙げて「史上最年少の賞金王」となった。
2010年の中日クラウンズでは、驚異的なスコア「58」を叩き出して逆転優勝。石川は「これをゾーンというのかもしれない」と名ゼリフを残した。
「日本における5年間で、自分のパフォーマンスを最大限発揮できれば、国内で賞金王を獲れることはわかりました。でも、僕が目指すのはメジャー制覇」
そう語っていた石川は、その言葉通りに海を渡り、アメリカツアーに挑戦。
しかし本格参戦した今季、石川は初戦から3戦連続で予選落ち(135位タイ、125位タイ、121位タイ)。6戦目までで、予選通過は2回しかない。
「2年間でわずか1勝…。世界ランキングは94位にまで落ち込み、優勝争いとは程遠い絶望的な結果が続く(Number誌)」
日本ゴルフ界の若きスターは不振に喘いでいた。そして、その不振とともに、石川のコメントは面白みを欠くようにもなっていた。
「石川のコメントに本音よりも建前が並ぶようになった。それは勝利から遠ざかり始めた時期と重なる(Number誌)」
アメリカで石川の体験していたのは、「未知のゴルフ」だった。
「日本で打ったことのないショットを、アメリカに来たら打たされるんです。とりわけメジャー大会のコースセッティングは『自分の考えが及ばない次元』にありました」と石川。
ストレートのボールは打てても、石川は「左右に曲がるボール」が打てなかった。
「基本的に日本のコースでは、まっすぐのボールしか打てなくても、精度がともなえば勝つことができます。だけど、そんなゴルフはアメリカでは通用しません。アメリカだと、そこに林があって邪魔をするんです」と石川は語る。
それからの石川は「自分のゴルフを壊しにかかった」。
左右に曲がるボールの習得、高い軌道のアイアンショット…。
「かつて」のゴルフはスクラップにし、新たなゴルフのビルドに取り掛かった石川。その新たなゴルフは、かつてのそれよりも恐ろしく高い精度を求めるものだった。
「同じスイングで100球打ったら、100球が同じところに飛ぶような技術を身につける時期だと考えているんです」と石川。
たとえば、ピンまで103ヤードの距離を狙う場合、かつての石川ならば、100もしくは105ヤードという5ヤード刻みのショットで対応していた。
「ところが今は違う。正確に103ヤードを狙う距離感を自分に求めている(Number誌)」
一年前、石川は「ロボットになりたい」と発言していた。
石川に言わせれば、その当時は「薔薇」という漢字を100回ノートに書いている段階だった。
「薔薇という漢字は、いくら何でも100回ぐらいノートに書き連ねれば覚えられますよね。でもしばらくして改めて『書いてみろ』と言われると忘れてしまっている。そこでパッと書くことができて初めて、自分に蓄積された知識となるんです」と石川は語る。
ロボットを目指した一年前の石川は、薔薇を100回書いている真っ最中だった。そのため、練習場では当たり前に打てる正確なショットも、コース上では思い通りに打つことが出来ずにいた。
ようやくその繰り返しが身体に蓄積されてきたのは、昨年9月の三井住友VISA太平洋マスターズの頃。この時の2年ぶりの勝利を、石川は「ひとつ殻は破れた」と振り返る。
「自分のレベルが一つどころか、二つも三つも上をいっていた」と石川。
彼の新たにビルドしたゴルフは、まさにロボットような精度に達していた。
こんなエビソードがある。3番から9番までのアイアンを試打していた時のこと、なぜか7番だけが思うよりも2ヤード飛ばない。
「あれ、おかしいなと思って確認していたら、ロフトが0.5度ぐらい寝ていたんです」と石川。「クラブの担当者も気づかなかったくらいだから、僕も少しはロボットに近づいているのかな(笑)」
今季の石川は、なおもスクラップ&ビルドの途上にある。
それゆえか、なかなか結果がついて来ない。それでも、石川は果敢に新しいショットをモノにしようとなりふり構わない。
「今は試行錯誤の時期と受け止めています」と石川。
「厳しい声を覆すには、結果を残すしかない」
そう話す石川は、突きつけられた現実に焦りも芽生えている。
それでも彼は、どこまでも遠い未来を見据えている。
「僕にはシード権を持つ唯一人のプロゴルファーとして、日本を代表してアメリカで戦っているという意識があります」
そう語る石川の矜持は高い。
今の石川に、コメントの面白さなど必要ない。
彼の欲するのは、笑点のザブトンではない。
石川遼は、メジャー制覇を志すプロゴルファーなのだ…!
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ソース:Number (ナンバー) WBC速報号 2013年 3/30号 [雑誌]
「石川遼 米ツアー1年目の挑戦」
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