父は韓国籍、母は北朝鮮籍。生まれは愛知県、つまり日本育ち。
そんな多国籍なストライカーが「鄭大世(チョン・テセ)」という男(日本語、朝鮮語はもとより、英語、ドイツ語、ポルトガル語をも使いこなす)。
「骨付きカルビ的戦闘力」をもつというストライカー、鄭大世(チョン・テセ)。
Jリーグでは3年連続2ケタ得点を記録(2007, 2008, 2009)。
ワールドカップ(南アフリカ)には、北朝鮮代表として出場(北朝鮮代表としては34試合16得点)。
しかし、その後に渡ったドイツでは鳴かず飛ばず。
2部のボーフムではリーグ戦39試合14ゴールとまずまずだったが、1部のケルンでは5試合無得点…。そして、チームはほどなく2部に降格…。
「静かであってはならぬ男は、とうとう静かなままだった(Number誌)」
「嫌うんですよ。エゴイスティックなプレイを」と、鄭大世(チョン・テセ)は振り返る。
チームの規律に厳格なドイツでは、鄭大世のような「エゴイスティックなプレーをする選手」が極端に嫌われるのだという。
「周囲を活かしてパス、パス、パス。ストライカーにもまず献身を求めるんです」と鄭大世。
日本(Jリーグ)でプレーしていた頃、鄭大世のエゴは「許されていた」。
なぜなら、日本では協調性がそもそもの前提にあって、鄭大世のようなエゴイストこそが希少だったからだ。
「日本では多くの人がストライカーに物足りなさを感じています。それは、周囲に嫌われてもエゴイスティックなプレーをする選手がいないからです。だから、僕が許されてきたんですよ。自分のことしか考えなくても」と鄭大世は言う。
ところが、ドイツでは個人の自己主張の方が自明だからこそ、チームの規律が重視される。
日本とドイツ、結果的には両国ともにチーム・プレーが重んじられているわけだが、その過程はまったく異なる、と鄭大世は言うのである。
日本は「和」がベースにあるのに対して、ドイツは「独」を抑えるための規律なのである。ゆえに、「ドイツではエゴイストは称賛の対象とはなりえない(Number誌)」
エゴで行くか、それとも周りを活かすのか?
その狭間で、鄭大世(チョン・テセ)は悩み、もがき、苦しんだ。
「キーパーと2対1になった時、横に味方がいたら、パスを出せばほぼ100%の確率で決まる。その状況で、自分がシュートを打つのがエゴ」と鄭大世は言う。
しかしそれでも、最初からパスを出そうとしてしまうと、キーパーにゴールの危険性を与えることができなくなってしまう。まさにその「際(きわ)」が、エゴか否かの分かれ道。
「鄭大世(チョン・テセ)のサッカー人生は、『ゴールのみが善』という一点で簡潔であった(Number誌)」はず。
「お前からゴールへの積極性をなくしたら、何があるんだよ」と、かつての恩師・関塚隆氏(川崎フロンターレ)からは言われた。
ゴールできるから、もっとゴールできる。ところが、「ゴールを取れないと、ずっと取れない」。ドイツではすっかりボールに見放されてしまっていた。
アチラ(周り)を立てれば、コチラ(エゴ)が立たず。
結局、鄭大世はドイツ流の規律に順応することができなかった。そして、かの地を去った…。
日本では評価されていた「見えない努力」も、ドイツでは無価値。実戦の結果だけが全てであった…。
一方、両親がオランダ人の「ハーフナー・マイク」は、どこから見ても完全にヨーロッパ系の顔立ち。
しかし、ハーフナーの立ち振る舞いには「謙虚さ」や「礼儀正しさ」がにじみ出ている。彼には日本人特有の「空気感」が漂っているのである。
それもそのはず、彼は日本生まれの日本育ち。オランダ語も英語も話すが、「やっぱり日本語がホッとしますよね」とハーフナー。
エゴの塊のような鄭大世とは対照的に、ハーフナーは「あまりにも日本人の美徳を身につけ過ぎている(Number誌)」。その「和の心」は、サッカーをする上でデメリットになることも…。
「日本では調子に乗ったら叩かれるじゃないですか。だからなるべく静かにしていたし、自分を出すにしても徐々に徐々にと思っていました」とハーフナー。
空気を読みすぎてしまうハーフナーは、ストライカーとしての自己主張(エゴ)が足りなかったのである。
そんな謙虚なハーフナーは今、オランダに来て、考えを変えつつある。
「オランダのストライカーを見ると、『クレイジーな部分』を感じます。自分もそうならなきゃって思います」と、ハーフナーは言う。
オランダには、「バレないように肘を突き、足を踏み、頭突きをする」プレーヤーもいる。相手を殴り倒すような激しさもある。
「日本とは、競り合いの時に押される『グイグイ感』がまるで違う」とハーフナー。
どうやらハーフナーは、オランダで「野性的なストライカー教育」を受けているようである。
「監督からは、もっとBrutal(獣のように)なれって言われてるんですよ」とハーフナー。
………
鄭大世(チョン・テセ)の「エゴ」、そして、ハーフナー・マイクの「和」。
アチラを立てれば、コチラが立たず、コチラを立てれば、アチラが立たぬ。
国境を越えてプレーする選手たちは、その狭間での苦悩も人一倍のようだ。
しかし、彼らが国境を越えるからこそ、「国境の意味」も薄れていくのであろう。
もともと国籍をまたいで生まれた彼らには、そんな役割があてがわれているのかもしれない…。
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ソース:Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2013年 3/7号 [雑誌]
「ストライカーはまた泣く 鄭大世」
「オレも野獣になってやりますよ ハーフナー・マイク」
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