2012年9月20日木曜日

「喜びと悔しさ半々」。五輪サッカー、関塚監督


「『目標達成までは喜ぶな』というのは、早稲田の堀江忠男先生からずっと教えられてきたことでした。だから、感情を抑えたんです。でも、心の中では『ヨッシャー』って言ってましたよ(笑)」

オリンピック・男子サッカー、初戦のスペイン戦で大津が先制ゴールを挙げると、「関塚監督」は珍しくも力強いガッツポーズをつくっていた。



期待度の低かったU-23代表、それでも関塚監督はこの「スペイン戦」に懸けていた。

「初戦だからこそ、スペインにもスキは出てくる」

たとえ、優勝候補の筆頭・スペインといえども、そこに「虚」が生まれると読んでいたのである。



大方の予想を裏切って、スペイン戦に勝利した日本。その後の快進撃は、誰も止められなかった。一気にベスト4まで登りつめたのである。それは実に44年ぶりの快挙であった。

しかし、ベスト4準決勝の相手、メキシコによりその快進撃に急ブレーキがかけられた。オリンピック前の親善試合ではメキシコに勝利していた日本。ところが、そのメキシコ、親善試合の時とは「ひと味もふた味も違っていた」。

メキシコの選手たちは「非常にタフ」だったことに加え、戦術のバリエーションがじつに多彩であった。「相手によっては、ボールを持たせるリアクションでも戦える」。時に応じてあらゆる想定で戦える。最終的には優勝することになるメキシコは、そんなチームだったと、関塚監督は振り返る。



一方の日本チーム。「バリエーションという点でどうだったか」と関塚監督。

ホンジュラス戦以外は、メンバーをほぼ固定。永井謙佑をワントップにしてカウンターを仕掛ける戦い方に終始していた。

スペインの名スカウト、ミケル・エチャリは日本のプレーを現地で見て、目を瞠(みは)っていた。「技術と組織力の質が高い」。しかし、「戦術的に物足りない…」。



「『個』が劣っていたとは思いません。『個』が発揮できるような『グループの機能性』があればいいだけのこと」と関塚監督が語るように、その「組織力」は高く評価されることとなった。

ミケル・エチャリも「特筆すべきは守備の安定性」と賞している。



しかし、話が3位決定戦の「韓国戦」となると、評価は一転「大会最低の試合」とミケルはずけずけと言う。

ミケルが最低の評価を下すのは、各選手たちによる「戦術判断のミス」である。「多くの選手が『焦り』に精神状態を蝕まれ、攻め急いでいた。日本人は劣勢を挽回するための攻撃の際に、我を忘れてしまう危うさがあるのか?」と、ミケルは苦言を呈する。

それでも、ミケルは日本チームを高く買っている。「日本は世界のフットボールを席巻するかもしれない」。それは、「戦術面の熟成次第で…」という但し書きつきで…。



3位決定戦で韓国に敗れた日本。さすがの関塚監督の目からも涙がこぼれていた。

敗者たちのロッカールーム。すすり泣く者、唇を噛みしめる者…。そんな選手たちの表情を一人一人見回していくうちに、「こみ上げてくる感情」を抑え切れなくなっていた。最後の最後で…。



ベスト4進出の「喜び」と、メダルを取り逃した「悔しさ」。

そのとちらもが胸にこびりついている関塚監督は、大会終了後の心境を「半々の気持ち」と表現した。

それでも、日本チームの評価を問われると、「120点をあげたい」と堂々と答えた。「すべてのメンバー、そしてスタッフ。みんな本当によくやってくれました」。



入り混じる気持ちのまま、自宅のドアを開けた監督の目の前には、家族が書いた「ベスト4おめでとう!」の横断幕の文字が…。

あぁ、心ある人たちは、ちゃんと「喜び」のほうを見ていてくれたのだ…。



出典:Sports Graphic Number 2012年 9/27号
「関塚隆 8月のロンドン、成長と教訓」


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