彼女の左足から放たれたシュートは、美しい放物線を描きながら落ちていき、ゴール右隅に吸い込まれていった。
女子サッカー、U-20W杯、ヤングなでしこのエース「田中陽子(タナヨウ)」が、スイス戦で放った直接フリーキックである。
「これが4年前まで『コロコロ・シュート』と笑われていたのと、同じ選手のシュートなのか…?」
「4年前の私は、体もひょろひょろだったし、相手の強い当たりには負けてばかり。シュートを打ってもコロコロ。もう、へなちょこですよ(笑)」
一方、アメリカ選手のロングシュートは凄まじかった。それを目の当たりにした田中は、「このままじゃダメだ」と痛感。
U-20のチームでは「いじられ役」という彼女は、人一倍の「努力家」でもあった。小学校の頃には、リフティングを8,000回以上続けたという。そんなストイックな努力家は、必死に体幹を鍛え上げていく。
練習が終わっても、自分が納得するまでは決してフィールドから離れない。
フリーキックの名手として名高い、中村俊輔や宮間あやが練習に訪れた時など、田中は見学できるギリギリ近くの場所に陣取り、名手たちの蹴り方を熱心に研究していたという。
「いかに軽い動作で強いパワーを出せるか」。それが田中の目指す技術である。
体幹部でパワーをつくる一方で、ボールを蹴る脚部などの末端はリラックスさせておく。これは大リーグのイチローなども取り入れている「初動負荷理論」という、筋肉に「加速度」を生み出す方法だ。
「まだ筋肉もついていないけど、ボールが飛ぶようになりました」と田中。
そしてW杯スイス戦。前半30分、そして後半2分、田中は「左右両足」でフリーキックを決めるという「離れ技」をやってのけた。
韓国戦でゴールを決めた時などは、左手の薬指にキスをして、その手をスタンドに向けるというパフォーマンスで周囲を「ドキッ」とさせる。
「あぁ、あれ、ラウール(元スペイン代表)の真似です。YouTubeで見て、『これカッコいいじゃん』って思って(笑)」
この「キス・パフォーマンス」に、ファンからは「タナヨウに彼氏がいるのか?」との問い合わせが殺到。クラブの回答は「ないない。絶対ない!」
「それも失礼ですよね(笑)」
ちなみに、「こんなに注目されて、あっさり負けたらヤバくない」と言っていたU-20W杯、ヤングなでしこの成績は史上最高となる「3位入賞」。
田中陽子の得点は全部で「6」。負けたドイツ戦以外は、すべての試合でシュートを決めている。シルバーブーツ賞を受賞したのも彼女だ。
「性格は『ザ・ポジティブ』です(笑)。世界の舞台にももう慣れちゃいました」
そう言う彼女は、W杯で決めたシュートでさえ「蹴ったら入りました」と淡々。
そんな彼女の理想選手は、姉貴分「なでしこ」の大エース「大儀見優季」。大儀見は去年7月に結婚しているが、そんな姿も魅力だという。
彼氏の存在をクラブに公に全否定された田中。その理想のタイプは、俳優の溝端淳平(23)。「好きなところ? ふふふ、顔ですね」
「溝端淳平にプロポーズされたら? いや、えー!? それは、う〜ん…」
そこにいたのは、未来のストライカーではなく、ただ単なるフツーの19歳だった…。
「ヤングなでしこ 田中陽子」
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