「プロはいかにあるべきなのか?」
12年前にアメリカに渡ったイチローは、「プロとしての姿勢」を古巣のマリナーズで繰り返し語ってきたという。
「チームが苦しい時ほど、自分が何をすべきかにフォーカスしなければならない」
しかし残念ながら、イチローのこの想いはマリナーズの選手たちに伝わったとは言い難かった。
そして今年の夏、イチローはマリナーズを去った。
ニューヨーク・ヤンキースへの電撃移籍。
それは「メジャー12年目の再出発」であった。
そのヤンキースのクラブハウス(選手控え室)は、どこか「冷たい印象」だった。
「勝っても大げさに喜ばず、かといって敗戦に落ち込む様子もない」
ヤンキースのクラブハウス内では、明らかに選手たちの喜怒哀楽が少なかったのだ。
しかし、それは「冷たさ」ではなく、「落ち着き」だった。
「ここでは精神的にすごく成熟した空気が存在している」とイチローは感じた。
そして、クラブハウスのこの落ち着きこそが、ヤンキースの「自信の裏返し」でもあった。「敗戦後でも、感情にまかせて用具やロッカー機材に八つ当たりする者は、シーズン中ほとんどいなかった」。
彼らは決して「先のことを考えない」。
「目前の一球にだけフォーカスするのは、結局それしか自分にコントロールできないと、みんなが分かっているからだ」とラウル・イバネスは語る。
「どんなに優れたスナイパーも標的を外すことはある。でも、優秀な射手はそこで次のターゲットのことしか考えないはずだよ」
「理想としていたものがここにあった…」
イチローはメジャーに来てから12年間、「プロはいかにあるべきか」、その答えを探し求めてきた。そして、それはヤンキースのクラブハウスの中で見つけることができた。
過去12年間のマリナーズ時代、イチローは「すごく孤独を感じる時間が多かった」と打ち明けている。しかし、ヤンキースは違った。皆が皆、「プロとしての姿勢」を暗黙裡に共有していたのである。
メジャー12年目の再出発。
「これまでの模索が無駄でなかったと分かっただけでも、収穫は大きかったのではなかろうか…」
ソース:Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2012年 12/20号
「アメリカに来て、理想としていたものがここにあると感じながらプレーしています」イチロー
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