今季のオープン戦
大谷翔平は2試合つづけて炎上した。
本人は
「投げ心地がよくない。球がバラバラ」
とコメント。
大谷は言う。
「鎌ヶ谷で投げたときは、まだまだ”底上げ”の時期で、ガンガン、ウェイトもやってましたからね。あの頃が”まだ、もうちょっと行けるな”と思ってやっていた最終段階でした。その後だったかな、自分の中で”もう、そろそろかなぁ”という気分になったのは(笑)。そこから”音合わせ”に入ったんです。そこは、これができたからとか、そういうキッカケじゃなくて、あくまでも”気分”です」
大谷には、一つ一つの音を強める時期と、それら強まった音を合わせていく段階があるようだ。
2015年3月22日 神宮球場
登板予定のない大谷は「音合わせ」をしていた。30分以上のキャッチボール。短い距離を投げたかと思えば、遠投をしたり、シャドウピッチングを繰り返したり。
大谷翔平「神宮では、”今の自分にどれが合っているのかな”というところを探りながら、いろんな投げ方を試してました。上半身だけを意識したり、下半身だけだったり。それぞれを”どういうふうに組み合わせればいいのかな”と、あれこれ考えながら投げてました。まずはキャッチボールから始めますね。その身体の状態だと、投げる時にどういう動きが出るのか。それがいい動きだったとしても、今までとは違う動きをしている分、必ず違和感が出てくるんです。カタチがよくても感覚のなかで投げづらいなということもよくありますし、そこを、これは現状よりも上にいくためのステップだと我慢して、修正していくという感じです」
ある音を強めたときに、他とのバランスがどう変わるのか。その確認、修正が大谷の”音合わせ”。
大谷翔平「自分の感覚のなかで”これは必要ないな”という邪魔な動きを使ってタイミングを取っていた部分があったんですけど、そこを省きたい。そうすると、力が伝わらない部分が出てきてしまう。今度はそのための違うリズムのポイントを探さなくちゃならない。それが”音合わせ”の作業です。ムダなく、ロスなく、なるべく余分な動きを省いて、最少の動きで投げたいなと思っています」
2015年3月27日 札幌ドーム 開幕戦
彼はリュックをしょってやって来る。
その昔、その中身はグローブとおにぎりだった。少年時代、大谷は飄々とグラウンドにやってきて、嬉々として大好きな野球にいそしんでいた。
いまの大谷も、必要以上には緊張しない。試合前の練習はリラックスそのもので、練習がすむと軽口をたたきはじめる。
「今日の入場曲、何でしたっけ?」
大谷はピッチャーのときの入場曲を自分で決めない。「どうせ耳に入ってこないから」と他人任せにしている。この日はドリカム(DREAMS COME TRUE)の予定だった。
「曲、変えちゃおうかな(笑)」
突然の戯れ言に、広報担当の畑中久司は面食らった。
畑中久司「たいしたもんですよ。まったく緊張を感じさせないし、だからといって無理にリラックスしてるふうでもない。本当に”いつもの大谷”なんですよ。結局、”登場曲はそのままでいい”と言ってくれましたけどね(苦笑)」
♪ わたしらしくあるために ♪
ドリカムの『決戦は金曜日』の登場曲とともに、3月27日の金曜日、大谷翔平は開幕戦のマウンドに上がった。さすがの大谷にも緊張が感じられる。
大谷翔平「朝も平気だったし、このままいけるのかなと思ってましたけど、お客さんがたくさん入っているのを見て、やっぱり自分でも”緊張しているのかな”と思いました。いつも以上に汗もかいていたし、これだけ入ってもらえばファンの方々の期待も感じます。情けないピッチングは見せられないというプレッシャーはあったかもしれません」
プロ3年目の大谷翔平、20歳で務めた開幕投手。
立ち上がりからボールが暴れた。
敵のエース、則本昂大の淡々としたピッチングとは対照的に、大谷の肩には力が入りすぎていた。
ピンチは早々におとずれた。
2回、ノーアウト満塁。
いかに凌ぐか?
”音合わせ”は済んでいるのか?
結局、大谷はこのピンチを犠牲フライだけの1点で凌いだ。
大谷翔平「今年の組み合わせ、見つかりました。この間、風邪で寝込んでるときです(笑)。練習できなかったんで、去年の自分の投げ方の動画を見ていたんです。そうしたら、ふと閃きました。今年には今年の良さがあって、去年の方がいいと思う部分もある。だったら、去年と今年を組み合わせちゃえば、もっと良くなると思ったんです(笑)」
その後、大谷はアバウトに投げ込むストレートでゴロやファウルを打たせた。追い込んでからはフォークで三振を奪うなど、リズム良く投げていた。
ところが6回、大谷は「足がつりそうな感じ」でマウンドを降りた。
それでもリリーフ陣が勝利投手の権利を守り通して、大谷は”開幕戦の白星”を手に入れた。
大谷翔平「緊張するからこそ、勝ったときに面白いのかなって…。勝てる勝負に勝っても嬉しくないですし、どっちが勝つかわからない、むしろ負けるかもしれないくらいの勝負のほうが、勝ったときの嬉しさは大きいのかなと思います。だから、緊張しないと面白くないかなって思うんです」
(了)
ソース:Number(ナンバー)875号 羽生結弦 不屈の魂。フィギュアスケート2014-15 (Sports Graphic Number(スポーツ・グラフィック ナンバー))
大谷翔平「今年の組み合わせ、見つかりました」
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