宮里藍(みやざと・あい)は2010年、ゴルフの世界ランキング1位にまで登りつめた。
あれから5年、現在の世界ランクは104位。予選落ちが続いた昨季は過去最低の成績だった。
転落のきっかけは2013年の終わりに”気分転換のつもりでパターを変えたこと”。最初は良かった。だが、使い続けるほど合わなくなってきた。あわてて元のパターに戻すも、時すでに遅し。パッティングという武器を失ったことで、ゴルフに対する自信が恐怖心に変わってしまっていた。
宮里は言う。
「試合中、パットの話をしていて(キャディの)ミックから『これ以上悪くならないからさ!』と言われたんですよ。私、それがすごく気に入らなくて。パンチしてやろうかっていうくらい腹が立ったんです。アイツ、あんな失礼なこと言って、一番近くで私が努力しているのを見てるのに!」
ミック・シーボーンは10年間、宮里と二人三脚でアメリカ・ツアーを戦ってきたキャディだ。その日の夜、宮里はホテルのお風呂につかりながら悶々としていた。
「(ミックの冗談を)笑って受け流せなかった自分に凄い違和感を感じて、なんかおかしい、と。一番のチームであるキャディにさえも自分の弱いところを見せられていなかったなって思ったんですよ」
そしてハッと気がついた。
「ずっと邪魔していたのはコイツだったんだ! なにかピッて棘(とげ)がとれたみたいな感じで、すごく楽になったんです」
思えば5年前、世界の頂点にいた宮里はこう言っていた。
「”ありのままの自分”でいればいいとわかってから、自分のゴルフを見つけられた」
”ありのままの自分”とは誰なのか?
それは”最高の自分”だけなのか?
”最悪の自分”はどうなのか?
いまの宮里は言う。
「”自分らしさ”ってすごく難しい言葉だなって思うんです。ゴルフも私もずっと同じではいられない。その時の自分っていうのが”らしさ”じゃないのかなって、今は思ってます。(昨季は)ゴルフ人生でまったく体験したことのないことばかりで、輝けてはいませんでした。自分自身を受け入れられなくて、自分にだけどうして、こういうことが起こるんだろうって」
宮里は続ける。
「調子が良かったころの自分と比較して、『こんなはずじゃない…』って。自分に対して、いつまでも合格点をあげられず、常に(最高の自分との)ギャップとの戦いでした」
松岡修造は言う。
「藍さんの話を聞いて、僕が現役時代、ケガに苦しみ試合に勝てずにもがいていた時に、大切にしていた言葉を思い出した。苦しいときほど Why? ではなく、Howでとらえる。こんなに頑張っているのにナゼ(Why)自分だけと考えるのではなく、今の状況でドウヤッテ(How)前に進めるのかと捉えることで突破口が開けたのだ」
松岡は続ける。
「人は時に、”ありのままの自分”を最高の状態にあった自分とすり替えて、そうでない今の自分を否定して苦しむことがある。しかし”ありのまま”とは、強かった自分でも弱さを否定し続ける自分でもなく、強さも弱さもひっくるめて、今ここにいる自分なのだ」
ありのまま
強さも弱さも、ありのままに
自分の中の棘(とげ)は、それを否定するほどに痛みを増してゆく。
その棘もまた自分だったと受け入れたとき、宮里の大きな瞳が輝いた。太陽のような笑顔が湧き出した。
「ありのままの藍さんであれば、必ずメジャー制覇は叶う」
松岡修造はそう断言する。
(了)
ソース:Number(ナンバー)875号 羽生結弦 不屈の魂。フィギュアスケート2014-15 (Sports Graphic Number(スポーツ・グラフィック ナンバー))
宮里藍「宮里藍が受け入れた”ありのまま”の自分とは」
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