2015年3月11日水曜日

オトナとコドモ、二刀流 [大谷翔平]




プロ1年目、19歳の大谷翔平はピッチャーとして3勝、バッターとして3本のホームランを打った。それでも(投打)二刀流への批判は絶えなかった。

ところが2年目、11勝を挙げて10本のホームランを放つや、世間の風向きは一気に変わった。







20歳の大谷は言う。

「やってることは去年と変わらないし、特別なことをやってるわけでもないんですけどね」

そして、こう続ける。

「ただ、常に”きっかけ”を求めて練習しているというのはあります。”閃(ひらめ)き”というか、こういうふうに投げてみよう、こうやって打ってみようというのが、突然、出てきますからね。やってみて何も感じなかったらそれでいいし、継続した先にもっといい閃きが出てくることもあります。常にそういう閃きを追い求めてるんです。自分が変わるときは一瞬で上達しますし、そういうきっかけを大事に考えて練習してますね」



閃きは突然だった。

「部屋でスマホをいじりながら、ダルさん(ダルビッシュ有)の動画を見ていたんです。そうしたら、ふと(セットポジション)をやってみようかなと思いました」

それまでの大谷のピッチングフォームは、ランナーがいない場面では振りかぶるのが当たり前だった。それをセットポジションに変えてみようと閃いたのである。

「最初は、振りかぶる良さもありますし、僕もずっとワインドアップで投げてきたので、変える怖さもありましたけど、まずは試してみようと思って、ダルさんのイメージから入ったんです。そこから、だんだん自分に当てはまる部分を選びながら削っていきました。それがすごくいい感じだったので、すぐにゲームでやってみたんです。あれで手応えをつかんだ部分が去年はすごく大きかったし、そのおかげで前進しましたから、思い切って変えてみて良かったと思ってます」







去年、20歳の誕生日(7月5日)に、大谷は一試合で2本のホームランを打った(マリーンズ戦)。

「最初のホームランは変化球をイメージしていて、ストレートに反応できた感じでした」

1本目は初回、藤岡貴裕の投げたストレートをレフトスタンドに叩き込んだ。

「2本目は、まっすぐを狙って、まっすぐを打ちました。まっすぐのカウントで、まっすぐが来て、まっすぐを狙って、思いっきりいったら入った …。ただそれだけなんですけど(笑)、これがバッターとしては一番気持ちがいいんですよ」

2本目は最終回、金森敬之の内角へのストレートをライトスタンド上段へ突き刺した。一試合2本のホームランは自身初。自らの誕生日を自らで祝う結果となった。







プロになって大谷の身体は大きく変わった。

高校に入学した15歳のときには188cm、66kgで「ユニフォームが風になびいて、みんなに笑われた(母・加代子さん談)」ほどだったが、今では94〜95kg。30kgも増量している。身体つきはすっかり大人になった。だが大谷は

「うーん…、どうなんですかね。自分でオトナになったとは思わないですね」

大谷にとってオトナとは?

「それは、”自分に制限をかけることができる”ということかな。高校時代、『”楽しい”より”正しい”で行動しなさい』と言われてきたんです。すごくきつい練習メニューがあるとして、それは自分はやりたくない、でも自分が成長するためにはやらなきゃいけない。そこで、そのメニューに自分から取り組めるかどうかが大事な要素なんですよね。何が正しいのかを考えて行動できる人がオトナだと思いますし、今の自分はまだまだですけど、制限をかけて行動するのは大事なのかなと思ってます」

そういうオトナ心を意識する大谷だが、一方でこうも言う。

「オトナに必要な”ある程度の制限をかける”という考え方は逆に、できることとできないことの判断を現実的にしてしまう部分もあると思います。今も(投打の)二つをやらせてもらってますけど、自分にできることとできないことを予測したり、自分がどこまで成長するかをイメージしたりすることは、今はできない。だから二つやろうと思ってるわけで。それを安易に、自分はここまでしかできないのかなと、憶測だけで制限をかけてしまうのは無駄なことだと思います。自分がどこまでできるかということに関しては、制限はいらない。コドモはそういう制限はかけないのかなと思います」



野球をはじめた小学3年生のころから、大谷は「プロ野球選手になる」と言い続けてきたという。そして、それを疑ったことは一度もなかった。

「そうやって、周りのオトナたちの前で、声を張って言えるコドモが、実際、プロ野球選手になってるんだと思います」

一方、”正しい”と感ずるオトナ心も忘れない。

「去年のクリスマスに練習したのも、楽しいことより”正しい”ことを考えて行動した結果。だからその日、『あっ、これっていいかもしれないな』という閃きがあったんです。もしクリスマスだからって練習を休んでいたら、その閃きには出会えなかった」

いったい、何を閃いたのか?

「いや、まぁ、それはね(笑)。ピッチングのほうの閃きですけど」

その閃きが何だったのか、大谷は結果で明かしてくれるのだろう。



オトナ心を枠にしながら、コドモ心を遊ばせる。

この規格外の男は、大人らしさも子供らしさも併せもつ、この意味でもまさに「二刀流」である。










(了)






ソース:Number(ナンバー)870号 二十歳のころ。 (Sports Graphic Number(スポーツ・グラフィック ナンバー))
大谷翔平「オトナの僕と、コドモの僕と」



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