「パーーーンッ」
乾いた音が大会会場に響き渡った。
決勝戦で敗れた女子選手の頭を、監督が思い切り引っ叩いたのである(2011年世界選手権)。
「普段からああなんですよ」
衝撃的な出来事にも関わらず、選手たちは淡々としていた。
なるほど、これが女子柔道界の「日常」であったのだ。
「手打ち、竹刀で叩く、足で蹴るなどの暴力行為」
それを全柔連(全日本柔道連盟)が認めたのは、先月30日(2013年1月)。
その裏では、暴力行為を告発した女子選手たちに「死ね!」「代表から外すぞ」との罵声が浴びせられていた、そうJOC(日本オリンピック委員会)は報告している。
なぜ、彼女たちはJOCに訴え出るという「異例の行動」に踏み切ったのか?
それは、全柔連の「姿勢」にあった(Number誌)。
JOC(日本オリンピック委員会)への告発に先立ち、彼女たち15人はまず、全柔連(全日本柔道連盟)に監督の暴力行為を訴えていた(2012年9月)。
しかし、全柔連は「何事もなかったかのように」、暴力監督の続投を発表(11月5日)。「監督の謝罪により収束」と選手たちの訴えを退けた(11月28日)。
その6日後であった。全柔連の「姿勢」に憤った女子選手たちが、JOCへの告発に踏み切ったのは。
「全柔連には、誠実に対応する気はない。変わる意志はない」
そうとしか思えなかった。だからこそ、動かざるを得なかった。
「私たちは、『連盟のため』に存在しているの?」
そう実感する選手たちも少なくなかったのである。
本来、「選手のために」こそ、連盟は存在すべきであった。
ロンドン五輪で活躍したアスリートたちの裏方には必ず、「選手のために」全力でサポートしたスタッフたちが存在している。
ところが女子柔道は、ロンドン五輪、金メダル一個にとどまった(男子ゼロ)。複数の金メダルを獲れるポテンシャルがあるはずだったのに…。
はたして、監督をはじめとする指導陣と選手との間に、信頼関係はあったのか? そんな疑問が呈されるのも無理はない。
それでも選手たちは耐えていた。全柔連の対応を、固唾を飲んで見守りながら…。
しかし、淡い期待は儚くも消えた。ろくな検証もないまま、何の臆面もなく暴力監督を続投させたのだから(前述)。
「もし真摯な検証と、再出発へのプランがあれば、告発はなかっただろう(Number誌)」
世論の激しいバッシングも奏功してか、全柔連が暴力行為を認めたその翌日(1月31日)、一転して園田監督は辞意を表明した。
しかし、「監督の交代で幕引きとなるなら、選手たちの想いを踏みにじることになる(Number誌)」
なぜなら、選手たちの根本にあるのは「柔道界を変えたい」という熱い想いだからだ。
「本来、連盟や協会といった団体は、『選手のために』あるはずだ(Number誌)」
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ソース:Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2013年 2/21号 [雑誌]
「女子柔道選手たちは、なぜ代表監督を告発したのか」
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