2012年10月12日金曜日
40になって益々盛ん。稲葉篤紀(日本ハム)
「今年で終わるかもしれない…」
今年40歳になった稲葉篤紀は、そんな覚悟を決めていた。昨季の打率は2割6分2厘と自身「過去最低」。5年前(2007)に26本の本塁打を放ち日本ハムの日本一に貢献した時の稲葉とは、もう違っていたのだ。
「正直言って、自分には後がない…」
そんな想いの中で迎えたシーズン初打席。
西武の涌井のストレートを稲葉は強振。鋭いライナー性の当たりとなった打球は、二塁打となった。結局、この日は4打数3安打1四球。最高のスタートだった。
その後もヒットを量産した稲葉は、今季あと34本と迫っていた2000本安打を早々に達成(4月28日)。打率は一時、3割8分台にまで乗った。多くの選手が統一球の対応に苦しむ中、稲葉は逆に打率を上げてきたのである。
この見事な復活劇の裏には、「原点」に立ち返った稲葉の姿があった。
「バッティングマシンを使う練習のときに、1、2歩前に出て打ってみる。あるいは球速を上げてみる」。それは稲葉が少年の頃にやっていたという古典的なトレーニング方法であった。
また、身体のケアに関しても意識を変えた。
「今まではトレーナーの方にマッサージやストレッチをしてもらっていたんですが、そうすると、トレーナーがいない時は身体が回復しなくなってしまう」と言って、人に頼らず、何とか自力で復活できる身体を作り上げたのであった。
「ストレッチや半身浴に倍以上の時間をかけるようにしました」
身体のケアは人に頼らぬ一方で、技術に関しては大いに人に頼った。
「日本ハムに入った時は、もうプロに入って10年経っていましたから、コーチも何も言ってくれませんでした」と言う稲葉は、じつは「コーチから何も言われないと不安を感じる選手」なのだという。
「ベテランになればなるほど、何も言ってもらえなくなる」と言って、稲葉は若い選手にも助言を求めた。「どう?」と若い選手に聞くと、意外と的確なアドバイスがもらえたりもする。「後輩に聞くのもいいもんだな…」。
ついでに他のチームの選手にも聞きに行く。「ソフトバンクの松田選手がバットを握る右手と左とを少し空けていたのを発見したので、その理由を聞きに行ったんです」。松田が言うには、そうしたほうが「ヘッドが返りやすい」とのことだった。早速、稲葉も試してみると確かにヘッドがしっかり返ってくる。「僕の引き出しの一つに入れときました」と稲葉。
今年、同じ40代の金本知憲が引退を発表した。
「やっぱり、寂しいですね…」と遠くを見ながらも、「僕は来年も現役で頑張ります」と稲葉はキッパリと言い切った。
「バッティングは生き物、それも本当に難しい生き物。なついたと思ったら、すぐに離れていく」と語る稲葉は、その生き物をつかみきるまで、きっと現役でバットを振り続けるのだろう…。
ソース:Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2012年 10/11号
「稲葉篤紀 40歳の"聞く力"」
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