2017年5月13日土曜日

エディーの「嫌われる勇気」[ラグビー]





エディー・ジョーンズ、57歳。

「選手から好かれる必要などない」と断言する、この男。その実績たるや周知のとおり、ラグビー日本代表を率いた2015年W杯、常勝の巨人軍団、南アフリカ撃破という大金星をもたらした。

ワールドカップ後に日本を去ったエディーは、ラグビーの母国イングランドに渡る。そしてイングランド代表のHC(ヘッドコーチ)に就任。イングランド代表を、オールブラックスに並ぶ18連勝へとみちびき、シックス・ネーションズ(欧州6ヵ国のリーグ戦)を連覇。



エディーは言う。

「選手から好かれる必要などないのです。嫌われても全くかまいません。ただし、選手から『リスペクト(敬意)』をもたれていないとすれば、それは指導者失格です」

Number誌は問う、孤独ではないか?と。

エディーは答える。

「指導者とは、孤独なのです。絶対にね。逆に聞きたいですね、選手たちから孤立して、何の問題があるのか、と。むしろ、孤立しないといけないのです。たとえば選考漏れした選手と、その決断を下した私が、同じ気持ちになれるはずがない。たとえばイングランド代表のキャンプに30人招集し、ハードワークにあたらせる。そこから7人を落とし、23人のメンバーを選ばないといけない。感情的に距離を置いておかないと、そんなことできないでしょう。感情を切り離すことによって、自分の仕事に集中できる。まさに、嫌われる勇気が必要なのです」

エディーはつづける。

「わたしに嫌われる勇気があるとすれば、それは『自分を貫く勇気』です。自分を信じて、自分自身であり続ける。多くの日本人は、他者から好かれたいと思うあまり、いつも他人の顔色をうかがって生きています。その結果、自分であることを貫けない。選手はもちろん、コーチ陣にもそれを感じます。ここイングランドでも、同じ文化を感じます。国土が狭く、人口密度の高い島国では、他者との精神的な距離が近すぎる。敵をつくったときの代償が大きいからです。だから日本やイングランドでは、他者の顔色をうかがって、本音を隠した生き方を選ぶ人が多いのではないでしょうか。アメリカやオーストラリアでは見られない傾向です(注:エディーの生国はオーストラリア)」





エディーは言う。

「私はいつもアウトサイダーでした。オーストラリアでは半分日本人だとして差別され、日本では集団の『和』を乱す外国人として扱われ、イングランドに来た現在も、初の外国人監督として同じような目で見られています。もともとイングランドの人間は、オーストラリアが好きではありませんあらね。私はどこへ行ってもアウトサイダーなのです」

2012年、エディーが日本代表HC(ヘッドコーチ)に就任したとき、多くのラグビー関係者は「日本は世界では勝てない」と言っていた。

エディーは言う。

「『なぜなら日本人は身体が小さすぎる』とね。そんなことはわかっている。問題は『与えられたものをどう使うか』なのです。身体の小ささは、スピードにつながります。持久力にもつながります。足りないものに注目しても、出てくるのは言い訳だけです。われわれに与えられた武器は何なのかを考えなければなりません。『何が与えられているか』ではなく、『与えられたものをどう使うか』ということです」

エディーはつづける。

「多くの指導者は、選手の『現在』を見て、指導方針を考えます。そうすると足りないところばかりに目が向いてしまう。そうではなく、選手の『未来』を見るのです。数年後、その選手が大活躍している姿をイメージし、そこから逆算すれば、何を伸ばしていけばいいかわかります。才能とは、フィジカルや技術ばかりではありません。精神的な才能にも注目すべきです。たとえ技術的に未熟であっても、ハードワークに耐えられるだけの勇気をもっているなら、それは大きな才能です。タフな課題に挑む決断をくだした人間だけが、世界の舞台で活躍できるのです」

エディーは、さらに言う。

「たとえば日本代表時代、フルバックの五郎丸歩選手には、ほかの選手とは違った枠(フレームワーク)を与えていました。かれは人間的にもプレーヤー的にも少し特殊なタイプだったので、月曜日には全体練習から離れ、キックを中心とした自由度の高いメニューを与えました。ワールドカップが終わり、クリスマス休暇で日本に戻ると、テレビでたくさんの代表選手を見かけました。五郎丸選手は国民的スターになっていました。あのとき、もう少し厳しく言ってあげる指導者が必要だったのではないかと思っています」





サッカーにも話がおよぶ。

「たとえばサッカー日本代表の香川選手は、とてもクリエイティブなプレーヤーです。しかし彼の能力を最大限に引き出せたのは、ドルトムント時代のユンゲル・クロップ監督だけでした。おそらくクロップは、香川選手に最適な枠(フレームワーク)を用意したのでしょう。常に信頼を寄せ、失敗を恐れさせず、大きなフレームワークを与えた。感情のハードワークを後押しした。個人的見解として言わせてもらうなら、日本代表での香川選手はとても窮屈にみえます」





最後に、エディーはこう語った。

「成功は、その場かぎりで終わるものです。たとえば2015年のW杯最終戦(対アメリカ)は日曜日の夜でした。わたしは翌朝には、つぎの目標に向かっていました。なぜか? わたしは日本のラグビー界に残せるものはすべて残し、全力を出し切った。その実感だけが、わたしを次の目標へと向かわせます。もしも全力を出し切れていなかったら、その場にとどまってしまうでしょう。つねに全力を出し切ることは、次なる目標に立ち向かうためにも大切なのです」






出典:エディー・ジョーンズ「すべては勇気の問題だ」
Number(ナンバー)925号 スポーツ 嫌われる勇気 
Sports Graphic Number(スポーツ・グラフィック ナンバー)



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