2013年10月20日日曜日

次元の違う”遊び”。内村航平と白井健三 [体操]



「どうやったら(着地が)もっと止まりますか」

17歳の白井健三は、24歳の内村航平に聞いた。返ってきた答えは「トランポリンで遊んでうまくなれよ」。

2人とも両親が元体操選手であり、体操の指導者。その体操教室にはトランポリンがあった。



そして、世界選手権へむけた強化合宿中、2人の「トランポリン着地止め対決」がはじまった。その勝負は、「前方伸身宙返り」で半回転ずつ”ひねりの回数”を上げていき、どこまで着地を成功させられるかを競い合うものだった。

1回、2回、3回…。

両者は一歩も譲らない。

3回半、4回と両者ともに成功は続く。

その様を見ていた元・金メダリスト、米田功氏は思わずうなる。

「内村にしても白井にしても、僕たちから見ても”違う次元”でひねっている。僕はトランポリンのない環境で育ったのですが、感覚で味わった回数としても3回半や4回が限度でした」



さすがに”4回半ひねり”になると、2人とも着地が止まらなくなった。何度やっても止まらない。結局最後は2人とも疲れ切って”引き分け”でお開き。

「ありえない…。”遊び”のレベルが高すぎる…」

周りで見ていた代表選手たちも、唖然とするしかなかった。

米田功氏は言う。「試合で4回ひねれるということは、練習なら5回もできているだろうし、トランポリンになると(着地は止まらなくとも)おそらく6回、7回というひねりの経験があるはず」






世界体操2013(ベルギー)

”大会は「シライ」で幕を開けた(Number誌)”

「シライ」というのは、白井健三の新技「後方伸身宙返り4回ひねり」につけられた名前。

”まだあどけなさの残る17歳が繰り出す「至高のひねり技」には、2万人ちかい大観衆が沸くばかり(同誌)”

試合会場には「”シライ”の動画のダウンロード回数が、いま30万回を超えました!」との場内放送が流れる(YouTubeに配信されていた公式映像)。

公式サイトに「ミスター・ツイスト(ひねり)」と紹介された新星・白井健三は、種目別「ゆか」で期待通りの金メダル。世界を欣喜雀躍させた。







「あいつなら普通にやってくれるだろうと思っていたけど、本当に期待通りにやるんだからスゴイ」

世界王者・内村航平でさえ舌を巻く。彼は種目別ゆかで白井におくれること第3位であった。「なんか、人間じゃないようなものを見ているような感じです」と内村。

その内村の言葉を伝え聞くや、白井は破顔一笑。

「えー? また航平さん、ヘンな言い方して…。でも嬉しいです、そう言ってくれるのは。あっちも人間じゃないですから(笑)」



確かに、王者・内村航平も”人間じゃない”。

”決勝の最終種目の鉄棒には、ほかの23人がすべて演技を終えてから登場。すると、白井のひねりにあれだけ沸き上がる試合会場が、鉄棒の前に内村が立った途端にスッと静まり返る(Number誌)”

最後までスキを見せずにビシッと演技を決めた内村。昨年につづき個人総合優勝を確定させた。

”ただ一人、6種目とも15点台にのせる完璧な演技で、男女を通じて史上最多となる個人総合「4連覇」を達成(同誌)”



「美しさで勝負する」と大会前にいっていた内村、その美しさを貫いた。

”「シライ」の新技で幕をあけた世界体操は、最終日の内村の平行棒・金メダルで幕を閉じた(Number誌)”

白井健三の「ゆか・金メダル」は体操ニッポン史上最年少という快挙であり、内村航平の「平行棒・金メダル」は日本にとって32年ぶりであった。







大会後、内村はこう話す。

「健三のゆかは本当にスゴイ。ただ、僕は体操は6種目できて当然であり、ゆかと跳馬だけでは…と思っている。世界の流れ的にはスペシャリストが増えているが、やはり日本で体操をやっているからには6種目できて欲しい」

内村航平に次いで個人総合(6種目)の2位に入ったのは、やはりオールラウンダーの加藤凌平。体操ニッポンが団体で金メダルを獲るためには、そうした力が必要なのだと、世界を知悉する内村は実感している。



その内村の言葉に、初の世界舞台で旋風を巻き起こした白井健三17歳は

「将来的には、チームを引っ張る存在であるオールラウンダーを目指します」

と屈託ない笑顔で応えた。













(了)






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ソース:Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2013年 10/31号 [雑誌]
「2人だけのレッスン 内村航平・白井健三」


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