2018年5月6日日曜日

「風以前に、私たちの身体が揺れています」【アーチェリー】




狙いを定めて、矢をはなつ。

そのルーツは旧石器時代の狩猟といわれるだけあって、アーチェリーは野性味をおびた競技である。矢の速度は時速200kmを超え、フライパンをも突き通すという。



柳田光蔵さん(82歳)
一江さん(81歳)

おふたりは年齢別ランキングでトップクラスのアーチャー。一江さんはこの世界で「レジェンド」と呼ばれている。



――風向きとか考えますか?

素人の浅知恵でたずねると、光蔵さんが一蹴した。

「風以前に、私たちは身体が揺れています。だから、自分の揺れ方のコツをつかんでおかないといけません」

そう言って彼は、指で曲線をえがいた。構えたときに矢の先が描く曲線。光蔵さんの場合はフラクタルな曲線で、「これが下から上にあがる瞬間に、放すんです」とのこと。

一江さんのほうは円をえがくそうで、一周した瞬間に放すらしい。放す瞬間を探りつづけることが、アーチェリーの醍醐味なのだという。大切なのは己を知るということ。震えるなら震えを正確にとらえるのがアーチェリーなのだ。

一江さんがつづける。

「アーチェリーはすべて自分の責任です。当たっても自分、外れても自分。人のせいにすることがないから、精神衛生上とてもいいんです」



「アーチェリーは自己責任ですけど、自己責任だからこその絆があるんです」

大会では、弓の部品が壊れるなどのトラブルも発生する。矢を射る制限時間があるので、リタイアを余儀なくされるのだが、仲間たちがすぐさま駆け寄り、その場で修理してくれたりする。一江さんも助けられたことがあり、「感動して涙がでた」そうだ。

「われわれ夫婦にとってもアーチェリーは『芯』ですね」



一江さんはアーチェリーの基本姿勢を力説する。

「とにかく胸を張って、腕をひろげる。社交ダンスと同じです。ダンスも前のめりはダメでしょ? 人生は何事もそうだと思う。胸を張って歩かなくちゃ、ね。自分ばかりが前のめりになっちゃダメ。それじゃ狙いを外してしまいますから」





From:
Number(ナンバー)951号 
ICHIRO BACK TO MARINERS 2018


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