2014年5月25日日曜日
苦中にあって [本田圭佑]
——日本代表を背負う男が、あこがれの場所でもがいている。
長友佑都との対決が注目されていたミラノ・ダービー(2004.5.4)。本田圭佑に出る幕はなかった。
——32節のジェノア戦でようやく初ゴールを決めたが、その後、左足首を傷めて2試合欠場。波にのれなかった。そして36節のミラノダービーでは出番なし。ACミランへの移籍から4ヶ月、スタメンの座もままらない(Number誌)。
ダービー後、本田は「お疲れさん」と一言だけ残して去っていった。
——本田圭佑はミランにとってまだ「駒の一つ」にすぎず、CSKAモスクワのときのようにキングになれていない。今はまだ、カカという王様を守る兵隊にすぎないのだ。まわりが本田に合わせるのではない。本田がまわりに合わせなければならない(Number誌)。
Number記者は問う
「本田くんは思うようにいかず苦しいとき、何を意識して行動しているんだ?」
本田は答える
「いま自分が意識していることはたくさんあるんだけど、そのうちの一つをあえて紹介するなら『基本的なことを続ける』ということだね。自分にできる基本を繰り返す。それが状況を打開するポイントになる」
本田は続ける
「苦しんでいる時、状況がなかなかうまくいかない時に、特別なことをしようとするんではなくて、出来ることをする。原点に帰るということのほうが、作業としてはやりやすい」
「いまのチームには、普通のタイプがあんまりピッチにいない。だからこそ、基本をできる奴が際立つ」
——不思議と本田は、評価されない時ほど目が輝いているようにみえる。下克上が大好物なのだろう。理不尽な出来事があればあるほど、燃えてくる性格らしい(Number誌)。
「今はまだ、時が来るのを待っている」
ふたたび本田は口を開く。
「いや、待つのではなく、引き寄せようとしている」
キエーボ戦では、バロッテリからパスがきて、GK(ゴールキーパー)と1対1になった。だが決められなかった。
「あのへんが成果として出始めると、状況は大きく一変すると思う。一変するというのは、まわりがね」
イタリア現地紙では、先のキエーボ戦、本田は高く評価された。劇的にプレーが良くなってきている、と。
本田は言う、「この2、3試合で認められたというのは、自分にとって予想外だけど、ひとつの上昇気流に乗り始めているのは間違いない。だからこそ、しっかりと地に足をつけて、自分の強みである忍耐力っていうもピッチで発揮していきたい。それも一日ではなくて、エブリデイね」
出番のなかったミラノダービーの試合後、本田はひとり、ふたたびピッチにあらわれた。
そして、ほぼ無観客となったスタジアムで約30分間、ハードなインターバル走に本田は汗を流した。
——その駆け抜ける姿に悲壮感はなかった。本田はなりふり構わず、泥まみれになりながら、名門クラブの王の座を狙いつづけている(Number誌)。
(了)
ソース:Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2014年 6/5号 [雑誌]
本田圭佑「異才のなかで、際立つ普通を」
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