2013年10月22日火曜日

「小さな求道者」宮間あや [サッカー]



ロンドン五輪前の、昨年(2012)の4月下旬。

ドシャ降りの雨のなか、宮間あやはチーム練習後も居残りでシュート練習をつづけていた。

ずぶ濡れまま彼女は言った。「今日はオリンピック初戦のカナダ戦からちょうど90日前。ロンドンの決勝戦が終わるその夜まで、私は今から一切、気を抜かない—」



”降りしきる雨のなか、その決意を聞いて、なでしこの決勝進出を確信した覚えがある。宮間あや。アスリートというよりは「求道者」に近いのかもしれない(Number誌)”

周知のとおり、なでしこジャパンはロンドン五輪で銀メダルを獲得している。その大会中、キャプテンマークを巻いていたのは「小さな主将」宮間あやである。








世界の頂点を争ったロンドン五輪から1年。

今季の日本女子サッカー(なでしこ)は、予想外の苦戦が続いていた。



「これじゃダメだとは、すごく思ってました」

宮間は言う。

「うーん…、五輪もそう思いながらでした。本当のことを言えば、W杯(2011)で優勝してからずっとですね。やっぱり、あれだけ自分たちの置かれている状況が一瞬にして変われば、いろんなことが不安になります。W杯以降、一つのチームとして、すべてが上手くいっていたわけではなかったと思います」

それはチームがバラバラという意味だろうか?

「皆、へんに”役割みたいなもの”ができてしまって、互いに理解し合っていなかったですね。多分みんな凄いプレッシャーを感じていて。五輪は誰かが一言『もう、つらい』って言ったら、みんなそっちに行っちゃうような。それくらい追い込まれている状態だったと思います」



そうした状態が極まってしまったのが、今年(2013)7月の東アジア杯。

日韓戦に敗れ、宮間は号泣し、「もう、ごまかせない…!」ともらした。

その敗戦を、宮間はこう振り返る。「選手間でもどちらが悪いというわけではなく、互いが自分の良いところをどうしても出そうとするというか。『自分は良いプレーをしたい。だから、そちらはそちらで何とかしてよ』というように、あのときは思考が守りに入っていました。ここ1年半くらいは『誰か何とかしてよ』っていう考えが多くて…」

この大会、3連覇を狙っていた日本・なでしこジャパンは最終戦の日韓戦に「1−2」で敗れ、1勝1分け1敗の2位に終わっていた(優勝は北朝鮮)。






ようやく風向きが変わりはじめるのは、9月のナイジェリア2連戦。

”なでしこジャパンは長崎・千葉でナイジェリアと国際親善試合2試合を戦い、ともに2-0で勝利(Number誌)”



転機となったのは、その1試合目。そこにはロンドン五輪をともに戦った「澤穂希」と「近賀ゆかり」が復帰していた。東アジア杯のときとは違い、宮間の表情は明らかにリラックスしていたように見えた。

「そう見えるじゃなくて、実際そうだったと思います(笑)」と宮間。「本当に2人の存在は大きい。チームについて自分が感じていたことを澤選手と近賀選手には伝えていました。最初は2人とも『そんなことないでしょ』みたいなことを言っていたんですが、合宿がはじまると『あっ、そういうことね』みたいにすぐ分かってもらえたんです」

東アジア杯で見られた「誰か何とかしてよ」という考えは、この古株2人の参加によって「私はここをやるから、あなたはここをできる?」という発想に変わっていった、と宮間は言う。

「『もう一度原点を』じゃないですけど、『自分たちの良さを出そう』と話し合いました」








長く澤とプレーをともにしてきた宮間は、澤が「何をしたいか」がよくわかった。

宮間「『ここで止める』というのが分かる時は、思い切って前へ行く。また、『この次あっちへ行くな』というのが分かる時は、自分がカバーに入ります。だからバランスはすごく良かったと思います」

宮間「それから守備の面では、DF(ディフェンダー)に近賀選手がいたことがすごく大きい。セットプレーでGK(ゴールキーパー)と話すことはありますけど、守備全体の話としては足りない。そこに近賀選手がいたことで、いろんなことがスッキリしました。『それでいいよ。やって』って近賀選手が一声いうだけで、自分たちも安心して前へプレスにいける」






オリンピック以降、なでしこの一番の問題は「ボールを奪う位置が低い」ということだった。

宮間は言う。「たとえば6月にやったドイツ戦は、強い相手に引き気味になってしまい、自分たちの良いところがまったく出せなかった(0-4で完敗)。五輪以降、強い相手としかやってないので『やられる』っていうイメージがつねに頭の中にあって。特にディフェンスのときに『やられちゃう』っていうイメージがついてしまっていました」

そうしたチームの”引けた姿勢”を見て、澤も近賀も言った。「裏を取られるのは怖い部分もあるけど、それを怖がってたら何もできない。剥がされるのを怖がってはダメだ。まず、そこから始めていこう」と。

そうした意図のもとに1週間ほど練習した結果、先のナイジェリア戦では試合開始直後から”高い位置からのプレス”が効いた。

試合を振り返って、宮間は言う。「やっぱり最初から高い位置でボールを奪いにいかないと自分たちの良さは出ない。そこはすごくハッキリしました。やっぱりハイプレッシングはありだと思います。『なでしこの方が人数おおいんじゃないか』と思わせるくらいのプレッシングはできると思っているんです」






それでも正直、ドイツやフランスは日本をあまり恐れていない印象は拭えない。

「そうですね」と宮間。「実際、強豪国は『たった一回なにかの間違いでW杯を獲った』ぐらいに思っているはずですよ。でも、そう思われても仕方がない。でも、相手が恐れていないほうがいいんです。その方が、自分たちに勝ち目がありますから(笑)」

最後に、宮間は”今後のなでしこ”を語った。

「男子サッカーを応援することは『文化』になってきている。でもまだ、女子を応援してくれるのは『世界一になったから』という流行みたいな部分があると思うんです。だから、それが文化になるように頑張っていかなきゃと思っています」



来年(2014)5月には、サッカー女子W杯の出場権を賭けた戦いがはじまる。前回王者としてのなでしこジャパンは、そのメンバーをリフレッシュして”新たな世界一”を競うことになる。

勝敗よりも「自分たちがどこまでいけるか」ということにこだわったのが、前回W杯での世界一だった、と宮間は言う。



「小さな求道者」宮間あや

彼女は、かつて歩いた道にふたたび挑む。












(了)






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ソース:Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2013年 10/31号 [雑誌]
「2年間ずっと、苦しかったですよ 宮間あや」


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