2013年8月1日木曜日
大河のごとき流れから、一瞬で「虚」を突く。中村俊輔 [サッカー]
「数的優位をつくれ!」
日本のサッカー界では「数の論理」が殊の外、重視される。
Number誌「指導者は子どもたちに敵が1人なら2人、2人なら3人で応対するよう教え込む」
素直な日本の選手は、教えられた通りの数的優位が保たれている時、「人数が足りているから大丈夫」と安心する。
ところが残念ながら、そうしたシステム依存は時に「虚」を生んでしまう。
そうした虚を、達人たちは突いてくる。
1990年イタリアW杯、マラドーナ(アルゼンチン)は4人もの敵の裏をとり、一本のパスからブラジルを倒した。
かくの如く、不確定要素に満ちたサッカーにおいて達人たちは敵方の数的優位を「逆手」を取ってくる。たとえ数の論理は強力だといえども、そこには「盲点」も確かにある。それが見える人には見えている。
日本の「中村俊輔(横浜マリノス)」もまた、そうした目をもつプレーヤーの一人。
Number誌「中村は、隙のない守備に隙を見出す。時間にして2秒、空間にして3mあれば、彼は磨きぬかれた左足でゴールを陥れてしまう」
中村の力がもっとも発揮されるのは「セットプレー」。だから中村と横浜マリノスは、意図してセットプレーを獲りにいく。
開幕間もなかった4月13日、川崎フロンターレとの一戦。横浜マリノスが決めた2つのゴールはどちらもセットプレー、コーナーキックから生まれたものだった。
Number誌「まんまとセットプレーを獲得すると、中村はボトルを手にしてゆっくりと水を飲む。もったいぶるようにしてソックスを上げ、最後にボールを置き直す。この儀式によって、彼はスタジアムの空気を支配する。息を整え、鋭く頭脳を回転させた中村は数秒後、その左足によってチャンスを呼び込むのだ」
数的優位をつくれ! 運動量で上回れ! ボールを下げるな!
こうした日本のサッカー界に染み付いた決まり事に、中村はまったく忠実ではない。
彼はもっと深いところでサッカーを考え、いつも何かを企んでいる。中村ひとりが大勢の敵に囲まれれば、ほかの味方が数的優位に立てる。ボールの動きを予測できれば、歩いてでも先回りできる。
Number誌「身体が小さく、考えてプレーするしかなかった幼少期に培った考える力が、35歳になっても中村を輝かせ続けている」
そんな中村俊輔がつくるリズムは「大河の流れ」のようにゆったりとしている。
じれったいほど後ろへ横へとパスをつなぎ、無理して縦に行くことは少ない。当然、攻撃に手数がかかることにより、敵の陣形は堅さを増す。
だが、陣形を固めて敵方が安心したその時、「虚」は生まれる。それは日本サッカー界を支配する常識が生み出す「虚」だ。
Number誌「無理もない。鉄道がダイヤ通りに運行され、停電や断水が滅多にない国に暮らしていれば、人は当然、システムに依存する」
今季、「面白いプレー」をする中村俊輔はJリーグの観衆を愉しませている。
そして、それは「誰にも真似できないプレー」。まさに円熟の技巧。稀代のレフティーはまだまだ健在である。
Number誌「ボール扱いは滅法うまいのに、日本代表は一つのリズムでしかプレーできない。悪い流れを変えられず3連敗したコンフェデを観て、中村が必要かもしれない、と思った」
(了)
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ソース:Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2013年 8/8号 [雑誌]
「日本代表に足りない中村俊輔のリズム」
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