2013年2月28日木曜日

自然な動きを追求する「ピラティス」。動物としての人間



「上半身を左右に回転させながら歩くのは、じつは人間だけです。」

ピラティスを指導する「中村尚人(なかむら・なおと)」さんは、そう言う。



人間は歩く時、右半身と左半身が違う動きをする(左右交互に足を出す)。さらに、上半身と下半身でも違う動きをする(手と足の振りが一緒にならない)。

「ほかの動物は、人間と同じ動きができないんです。肩甲骨や肋骨の位置・形状を見れば、それが分かります」と中村さん。

なるほど、つまり、左右上下の半身をねじりながら歩けるのは、人間だけということか。それは二足歩行を得意とする「人間の最も人間らしい動き」なのかもしれない。







こうした「人間の原理・原則にのっとった正しい動き」をその元とするのが、「ピラティス」というボディワークの基本である、と中村さんは言う。

「ピラティス」というエクササイズには、どこか目新しい響きがあが、それは日本で普及したのが最近だという話にすぎない。

じつはピラティス、その歴史は日本の合気道と同じくらいに由緒あるものである。

ちなみに、合気道の開祖とされる植芝盛平翁と、ピラティスの創始者ジョセフ・ピラティス氏の生没年齢はほぼ重なっている(1880年代生まれ・1960年代死去)。



ドイツに生まれたピラティス氏は、体操選手、ボディービルダー、プロボクサーなどなど様々なスポーツを経験していた。

ところが時は第一次世界大戦、たまたまイギリスに滞在していたピラティス氏は、イギリス軍に捕らえられると、捕虜収容所(ランカスターキャッスル)に送り込まれてしまう。



しかし、運命は奇なるもの哉。じつは、この収容所での抑留期間中に、ピラティス・メソッドは産声をあげることになる。

同じ収容所の仲間たちにピラティスを指導したピラティス氏、その結果、仲間たちの健康状態を保つことに成功。自分の考案したメッソドに確信を持つことになる。



ヨガや動物の動きをエクササイズに取り込んだというピラティス。

冒頭の中村さんの話にも、人間と動物の動きの違いがサラリと言及されるのは、それゆえなのだろう。







第一次世界大戦が終結すると、ようやくピラティス氏は生国ドイツに戻ることが叶うが、彼はその後、アメリカへの移住を決意する。ピラティスという新しいエクササイズを携えて…。

アメリカでまずピラティスに飛びついたのは、ショービジネスの世界で身体を酷使するバレエダンサーたちだったという。



彼ら彼女らは、ピラティス氏に身体の正しい使い方の指導を受けたおかげで、腰やヒザといった身体の悪い部分が改善されたと喜んだ。

そして彼ら彼女らが、その効果を絶賛することで、ピラティスは全米各地のみならず、世界各地へと羽を広げていったのである。



「簡潔に言えば、人間の根源的でもっとも効率的に動くことができるエクササイズが、ピラティス・メソッドです」と中村さんは言う。

「そのためのレッスンは、その人が何をしているのかを問題にするのではなく、『何がその人にとって欠けているのか』を見つけることが重要になっているんです」







「お腹を出さないで呼吸しろ」

ピラティスはそう教える。つまり胸で呼吸する「胸式呼吸」である。

それに対して、日本古来の武道は、腹で呼吸する「腹式呼吸」を教える。それは相手にこちらの動きを見破られないためだ。腹で呼吸すれば、肩の上下動を抑えることができる。

しかし、腹式呼吸は「人間の自然な動きに逆らう動き」でもある。子供たちにとっては自然な呼吸法である腹式も、大人たちは意識しないとできなくなっている。



ある意味、日本の武道は「人間の原理・原則から外れた動き」を体得することに、その道をつけていったのかもしれない。

それに対して、ピラティスの発想は「まず原理・原則どおりの正常な動きを覚えて、そこから原則を外した動きを体得していく」という立ち位置である。







ピラティスの運動の一つに、マーメイド・エクササイズというものがある。それは片方の腕を上にあげて、片側に身体を傾けていくエクサイズである(ラジオ体操の側屈のような動き)。

この時、呼吸は胸で行う(胸式呼吸)。そうしないと、肩の骨(肩甲骨)が動かず、胸の骨(胸椎・肋骨など)が十分に動けないためだ。



胸で呼吸をしながら身体を片側へ傾けていくと、それに従って、片側の胸郭が膨らんでいく。

「これは何故かというと、肺に空気は均等に入っていくので、片側が潰れていれば、入りやすい方へ多くの空気が入るからです」と中村さん。

「つまり、内側からのストレッチとなるわけです」



なるほど、ピラティスが「身体の中心(コア)を内側から鍛える」と言われるのは、このためか。

なかなか聞けない「コアの声」であるが、ピラティスはそれを「聞く耳」を持たせてくれるようなボディワークである。

そして、「動物としての人間」という根源的な自分をも、再発見させてくれそうだ…。








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ソース:月刊 秘伝 2013年 02月号 (特別付録DVD付)[雑誌]
「ピラティスで見直す身体活用の要諦 中村尚人」

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