2017年5月12日金曜日

論語と野球[栗山英樹]



話:栗山英樹(北海道日本ハムファイターズ監督)





ぼくにとって、むかしの書物の存在は大きかったと思います。『論語』だったり『菜根譚』だったり、





韓非子』、『言志四録』、『十八史略』もそう……





そういう本を読みはじめたのは、40歳になった頃かな。

いろんな方に会うようになって、社会で活躍する人の共通点みたいなものをイメージしはじめたんです。いつも声がでかいとか、たくさん食べるとか、よく笑うとか、いろんなところに共通項がある。

この人たちはいつも、なにを根っこに考えているんだろうと思って訊いてみると、ほとんどの人が中国古典に行き着いているということがわかりました。





なぜ、みんなが『論語と算盤』って言うんだろうって。

人のために尽くす道徳心と、お金を稼いで利潤を求めることって、一見、対極にありそうじゃないですか。でも、この本の冒頭には、日本というのは「サムライの魂と中国の歴史でつちかったものを組み合わせるといい」と書かれているんです。

この本の著者でもある渋沢栄一って人は、幕末の時代、江戸にでて、その後、世の中のために会社をつくった。幕臣から実業家に転身したわけで、つまり考え方を変えたってことですよね。それってすごい。しかも、あの時代は金儲けに走った人はみんなが財閥をつくったのに、一番デカい財閥をつくれたはずの人がそれをしなかった。私利私欲に走ることなく、公益を図ることを生涯にわたって貫いたんですから、そりゃ、すごいでしょう。

今まで何人もの選手に『論語と算盤』を渡しました。今年も開幕投手の有原航平に、この本をわたしました。





そういえば、(田中)賢介に「オススメの本はないか」と訊かれたことがありました。もちろん『論語と算盤』を渡して、あとは『木のいのち木のこころ』を…。

これは人を育てるのにすごく役に立つ本なんです。





あとは『羆撃ち』と『ドジャース、ブルックリンに還る』だったかな。

読みやすい本、楽しい感じの本、ちょっと小難しくて勉強になる本を選びました。賢介は野球を勉強するためのチャンスやヒントが野球以外のところにあることを知っているんでしょう。





ぼく自身、今年のキャンプではずっと『禅と日本野球』という川上哲治さんの本を読んでいましたし、去年も『巨人V9 50年目の真実』を読みました。








もちろん『論語』は何度も読み返しますし、ぼくの発想はほとんどそこから来ています。なぜかって答えは単純ですよ。たった100年ちょっとの人の歴史より、何千年の歴史のほうにたくさんの答えがあるに決まってるからです。

そうじゃじゃなかったら、2000年も前の『論語』をみんなが読むはずがないんです。それは、この本の中に正しい答えがあることをみんなが知ってるからだと思います。結局、監督の仕事は人のために尽くす、人のためになる…、そこに尽きるんです。





本を一冊、読み切ったとき、自分に何が起こるのかということを、選手たちには感じてほしい。

その体験を大切にしてほしいと思っています。









出典:栗山英樹『若手を育てる読書術』
Number(ナンバー)925号 スポーツ 嫌われる勇気
Sports Graphic Number(スポーツ・グラフィック ナンバー)



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