2013年4月20日土曜日

メッシさまさま。バルサ王朝の揺らぎ(サッカー)



最強チームの行き詰まりか。

「バルサではなかった(Irreconocibles)」

格下と目されていたミランに惨敗を喫した翌日の新聞には、「痛烈だが的を射た一言が大きく載っていた」。



欧州チャンピオンズ・リーグ(CL)、ベスト16第一戦。

0−2とミランに敗れた、この日のバルサ(2月20日)。

「たった2度しか枠内にシュートを放つことができなかった(Number誌)」



ベスト16でミランとの組み合わせが決まった時、地元バルセロナには「安堵の空気」さえ流れていた。メディアもファンも、楽観視していた。

「ベスト8入りは、まず間違いない」と。



ところが、バルサの絶対的エース「メッシ」は精彩を欠いていた。

「この時期のメッシには体のキレがなく、コンディションは下降気味だった。いつもなら出るはずのスピードがでない(Number誌)」



バルサの前監督グアルディオラは、メッシを中心に据えて、バルサを最強チームへと仕立て上げたはずだった。

「メッシをよりゴールに近い位置でプレーさせるようにした。そのためにはエトーをサイドに追いやり、イブラヒモビッチをベンチに置いた(Number誌)」

すべてが「メッシから逆算されたチーム作り」であり、その「メッシ・システム」がひとつの時代を築くことにもなったのだ。



だがここ数ヶ月、その歯車は明らかに狂っていた。

「簡単にボールを失う場面が目立つ。特に印象的だったのは、メッシのボールロストの多さだ。ドリブルを仕掛けるも簡単に奪われてしまう。動きは重く、圧倒的なスピードは影を潜めた(2月23日セビージャ戦)」

続くレアル・マドリーとのクラシコ(伝統の一戦)でもバルサは敗れ去る。

「近年のクラシコは、バルサ優位で進んできたが、今季はじめて形勢が逆転することとなった(Number誌)」



そして囁かれるようになった「バルサ終焉説」。

「ミランに敗れ、クラシコで2連敗を喫した頃には、そんな言葉も聞かれるようになった(Number誌)」



それでもバルサは、CL(チャンピオンズ・リーグ)ベスト16のミランとの第2戦を制する(4-0)。第1戦のまさかの惨敗に奮起したバルサは、その第2戦において「今季最高のパフォーマンス」を魅せたのだった。

「野性的な前線からのプレッシングと、軽やかなパスの連続。この試合こそが近年の最強バルサを象徴するものであり、それができるのは世界でもバルサだけだ(Number誌)」







ところが暗雲ふたたび。欧州CL(チャンピオンズ・リーグ)ベスト8、バルサは「敗退の淵」に立たされていた。

やはり2連戦で勝敗が競われるベスト8準々決勝、バルサはPSG相手に第1戦で引き分け(2-2)。そして、運命の決する第2戦…、

「PSGに先制され、スコアは0-1。このまま終われば、バルサは敗退が決まる…」

前半からバルサは劣勢だった。攻撃は空回りし、PSGの方が効率的にパスを回してチャンスをつくっていた。



「頼むから、出てくれ、メッシ…!」

満員の観客たちは、そう願っていた。

この大事な日、バルサはエース「メッシ」を欠いていた。第1戦の負傷(太もも)により、彼はベンチに座ったままだった。

「メッシを欠いたバルサに、バルサらしさはなかった(Number誌)」



沈みつつあった満員のスタジアム。

そこに突如、大きな歓声が沸く。観客は何か大切なものでも見つけたかのようだった。

「メッシだ!」

ベンチから出てきたのは、他ならぬ「メッシ」。見慣れるビブ姿の彼は、ゆっくりと走り出し、アップを始めたのだった…!







後半17分、ついにメッシがピッチに立つ。

「観客はこの日一番の声援を、背番号10に送っていた(Number誌)」

ピッチにメッシが立つと、バルサの選手たちも「勇気づけられたかのように一変した」。



だが、メッシはほとんど動かない。

というよりも、負傷の影響でほとんど動けなかった。監督からの指示も「前線で待っていろ」、それだけだった。

ボールタッチも数えるほど。しかしそれでも、メッシは期待に応えた。「たった一度のプレーで、彼は貴重な1点を呼び込んだのだ…!」。



「メッシは、ペナルティエリア手前で相手ディフェンダー2人をいなし、エリア内のダビド・ビジャへパス。DFにコースを塞がれたビジャは後方へ落とし、それをペドロが決めた(Number誌)」

救世主メッシの登場からわずか9分。ベスト8進出を決める同点ゴールはバルサに生まれたのだった(同点でもアウェーゴール差で、バルサの勝ちになる)。



しかしその後、メッシは負傷していた箇所をドリブルでまた痛めてしまう。

「それからはピッチ上でほとんど棒立ちになっていたメッシ。しかしそれでも監督はメッシを交代させなかった。『ほとんど動けないメッシ』でさえも、バルサは必要としていたのだ(Number誌)」



同点のまま試合は終了し、バルサは辛くもCL(チャンピオンズ・リーグ)準決勝への進出を決めた。6シーズン連続のベスト4入りは前人未到の快挙であった。

だが、その裏ではバルサの「メッシ依存症」が明らかにもなっていた。

「メッシがいなければ、どうなっていたか分からない…。メッシに感謝しないと」

同点ゴールを決めたペドロは、試合後そう口にしていた。偉大すぎる「10番」の存在は、バルサにとって両刃の剣ともいえるものだった。



メッシ包囲網は、確実に進行している。ある一枚の写真はそれを如実に表現している。

中央にはドリブルを仕掛けるメッシ。しかし、それをマドリーの選手5人(!)が取り囲んでいる。「まるで練習中のロンドのようで、囲まれたメッシは、その中で余計に小さく見える」。この直後、メッシはボールを失うことになる。



過去5年間、バルサはCL(チャンピオンズ・リーグ)に2回優勝。ベスト4進出を3回成し遂げ、黄金時代を築き上げてきた。

だが、時代は「バルサを追え」から、「バルサを超えろ」に変わろうとしているのかもしれない。明らかにバルサは射程距離内に捕らえられているかのようである。



「CLの歴史では、檜舞台を境に運命が暗転することも何度か起きてきた(Number誌)」

「たとえば、'02-'03シーズンの決勝では、ユベントスとミランが鎬を削っている。だが結果的には、最強リーグの名をほしいままにしたイタリア勢が、最後に存在感を示した大会になった。マンチェスター・ユナイテッドとチェルシーが覇を競った'07-'08シーズンも然り。プレミア関係者は大英帝国の復活を謳ったものの、今や見る影もない(今大会では16強で全滅)」



今年のCL4強は、スペイン勢(バルサとレアル・マドリー)、ドイツ勢(バイエルンとドルトムント)の2大勢力。

「囁かれるスペインの黄昏と、高まるドイツ復活の機運」

CL準決勝は4月23〜24日。そして決勝は5月25日。



バルサは王者の誇りを胸に、意地を見せるのか?

それとも…







(了)






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ソース:Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2013年 5/9号 [雑誌]
「スペインvsドイツ 決戦の行方」
「バルサの覇権は続くのか 揺らぐ王朝、深まるメッシ依存」

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