2014年7月5日土曜日

「南米仕様」にモデルチェンジ。ドイツ代表 [サッカー]




「南米では、自分たちのサッカーをやることは難しいかもしれない」

それが、ドイツ代表レーブ監督の「予感」であった。時は一年前のコンフェデレーションズ杯ブラジル大会(2013)。

「フォルタレーザは冬だというのに、夜になっても30℃を超えていた。ホテルの冷房が壊れ、サウナのようだった。ブラジルW杯は、暑さ、都市ごとの寒暖差、長距離移動に適応しなければ、痛い目に遭うだろう…」

さまざまな障害が待ち受ける南米ブラジルでは、現在のドイツ・サッカーは非現実的だ。レーブ監督はそう直感した。



そして開かれた緊急会議。

それまでのドイツは約10年間かけて、スペイン・バルセロナのサッカーを手本に、守備的なチームから攻撃なチームへ、ボールの支配率を高めて展開するハイテンポなサッカーに取り組んできた。

だが、南米での大会を前に、新たなフィロソフィーを打ち出した。それは、単なるポゼッション(ボール支配)から、プログレッション(前進)への転換だった。

——最先端の高性能車を目指していたドイツ代表の、「南米仕様」へのモデルチェンジがはじまった(Number誌)。






まず取り組んだのが、「なぜヨーロッパ勢は、南米の地で優勝できないのか?」という負のジンクスからだった。これまで計4回、南米でワールドカップが行われたが、ヨーロッパ勢の優勝は一度もなかった。中米メキシコでの開催でもそうだった。

「この謎を解明するために、私は1970年代のW杯までさかのぼって、全大会の準決勝と決勝を見返した」

そう言うのは、レーブ監督の参謀、ウルス・ジーゲンダー。分析のプロだ。

彼のたどり着いた結論は「南米では自分たちのスタイルを貫くべきではない」ということだった。



ジーゲンダーは言う。

「過去の大会で、ヨーロッパのチームは南米の地でも『まるで欧州にいるかのように』振る舞っていた。イングランドもイタリアもね。だが、ブラジルやアルゼンチンは違う。彼らはヨーロッパに来ると柔軟にやり方を変えているんだ。欧州勢も南米では『自分たちのサッカーを一時的に引き出しにしまうべき』だ」

まず見直されたのが、それまで10年間やってきたポゼッション(ボール支配)サッカー。

「ボールを保持し続けるには、絶え間なく動く必要がある。しかし、赤道近くのブラジルの暑さの下では、動けば動くほど体力を消耗してしまう」



議論によって導き出された結論は、従来のポゼッションからの進化系だった。

ジーゲンダーは言う、「スピーディーで常にゴールを目指すポゼッション。私たちはこれを『ボール・プログレッション』と呼んでいる。ボールを失わないようにしながらも、縦に速く攻めることが重要だ」

守備に関しては、ここ2〜3年のドイツは、ボールを失った瞬間にかけるプレス(ゲーゲン・プレッシング)に取り組んできた。だが、レーブ監督はその封印を決断した。

それをジーゲンダーが説明する。「ブラジルやアルゼンチンの選手は、ゲーゲン・プレッシングの圧力をかわす技術をもっている。もしかわされたら、高いDF(守備)ラインの裏を突かれてしまう。ブラジルの地では、エンジン全開のパワーサッカーはできない。ボールを失ったら、一度自陣に戻り、ブロックを組んだほうがいい」

それは、ドイツが4年前の南アフリカ大会で採用していた前モデル、いわゆる「リトリート」に戻ることを意味した。この引いて守る陣形は、前に飛び出すスペースを生むことにもつながり、それがカウンター攻撃の切れ味を増すことになる。






さて、実際にブラジルW杯がはじまると、レーブ監督らの予測が正しかったことが、すぐにわかった。

——オランダやコスタリカら、低い守備位置からカウンターを狙うチームが波乱を起こし、序盤グループリーグの主役になっていた(Number誌)。



ドイツも然り。

第1戦のポルトガル戦では、狙ったカウンター攻撃が炸裂。長い縦パスで相手陣内の裏をえぐり、4対0で大勝した。

元ドイツ代表のバラックは、その新戦術を絶賛した。「ユーロ2012では、ドイツはきれいにサッカーをやり過ぎていた。だから、準決勝でイタリアのカウンターに屈してしまった。だが、今大会では効率的にプレーして、より勝負強くなっている」

新たなドイツのポゼッション(プログレッション)は、それまでよりずっと燃費がよくなっていた。



ドイツ代表選手、ミュラーは言う。「僕らはボールを奪ったら、縦に速い攻めを狙う。そのためには頭の回転が必要だ」

参謀ジーゲンタラーは説明する。「テニスを例にしよう。スイスのフェデラーは『相手がラケットを振り上げた時点で、すでにボールがどこに来るかわかっている』と言っていた。サッカーも同じだ。相手の動きから多くのことを予測できる。現代サッカーはフィジカル(肉体)の強さで勝つのではない。賢さで勝つのだ」

さらに言う。「ポルトガルのクリスティアーノ・ロナウドは、先回りして動くことを徹底している。だからカウンターで抜け出せるんだ」



現ドイツ代表には、ロナウドやメッシ、ネイマールといった一発必中のタレントはいない。だが、ジーゲンタラーはそれをハンデとはとらえない。

「車でたとえよう。旧市街に通勤しようと思ったら、大型バンは買わないよな。買うのは小型車だ。ゴール前はそれと同じだ。以前は5〜6人の選手しかいなかったが、今は15人もいる密集状態だ。小回りが大切になるということだ」

ドイツには、ミュラー、ゲッツェ、エジルといった「偽9番」が3人いる。彼らは入れ替わり立ち替わり、細かくポジション・チェンジする。レーブ監督は「DF(守備)ラインに平行に走れ! そうすれば相手が食いついて、ブロックに穴が空く」と、偽9番たちに指示している。



レーブ監督は言う。

「一つのやり方だけでは、大会を勝ち上がることは難しい。フレキシブルに柔軟にチームをつくっていくことが重要なんだ」

——レーブは序盤からチームを完成させるつもりはない。大会を通してチームが変化していくことも計算済みだ。とりあえずグループリーグは堂々の1位通過を決めている(Number誌)。











かたや、一つの勝利もなくグループリーグ敗退に終わった日本代表。ドイツのような柔軟性に欠けていたとも指摘されている。

——「自分たちのサッカー」への拘泥が、強豪国のような柔軟性を削ぎ落としたのは否めない。「自分たちのサッカーで勝負する」という理想を育むばかりに、世界の方向性と乖離していった。一方、最先端を疾走する国々は、日本にはびこる二者択一を否定する。ポゼッションかカウンターかではなく、どちらも使いこなす。組織と個のいずれも強みとする(Number誌)。

日本代表、大久保嘉人はこう言っている。「自分たちのサッカーをやりたいって言うけど、じゃあ自分たちのサッカーって何なの? どんなやり方がいいかは大会ごとに違うと思うから、ショート・カウンターとポゼッションのどっちがいいかは言えない。ポゼッションをするにしても、時間帯によってはブロックを組んで守ることも大事になってくる。そのメリハリだと思います」











(了)






ソース:Number(ナンバー)コロンビア戦速報&ベスト16速報
ドイツ「南米で勝つというミッション」
戸塚啓「日本版ポゼッション・サッカーの限界」
大久保嘉人「すべてが中途半端だった」



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