2015年5月16日土曜日
フォルランと日本のサッカー
ディエゴ・フォルラン(35)
2010南アフリカ、サッカーW杯で「得点王」と「MVP」に輝いた、ウルグアイの英雄だ。
そのフォルランが、マンチェスター・ユナイテッド、アトレティコ・マドリーなどのビッグクラブを経て2014年、セレッソ大阪に加入した。
加入会見では流暢な日本語を披露し、日本中を驚かせると同時に、大きな期待を抱かせてくれた。
当時のことを、フォルランはこう振り返る。
フォルラン「日本で生活をはじめた頃はとても幸せだった。生活のクオリティは高いし、人々はとても親切だから。毎日なにもかもが新鮮で、地球の反対側にいるなんて意識することもなかった」
しかし、フォルランは日本の大きな期待に応えることができなかった。シーズン序盤は好調だったものの、半ば以降は山口蛍の離脱もあり、チームの状態は明らかに低迷していった。
”優勝候補だったセレッソ大阪は2部へ降格。フォルラン自身もシーズン終盤、ベンチから外れることが多かった(Number誌)”
その失意のシーズンが終わった直後、フォルランはウルグアイのTV「エル・オブセルバドール」に出演。日本のJリーグでプレーした印象や、試合に出られたかった葛藤を、率直かつ饒舌に語った。
フォルラン「チームの役に立ちたかったけど、残念ながら私は3ヶ月ほとんど試合に出られず、ベンチに入れないこともあった。試合に出られなくなると、100%幸せとは言えなくなった。あの頃は悲しい気持ちでいっぱいだった。そもそもサッカーに『化学』なんて存在しない。状態の良い選手を起用するというシンプルなスポーツなんだ」
”サクリフィシオ(犠牲心)”
この言葉をフォルランはよく使う。
フォルラン「毎日生活していれば、やりたいと思うことが出てくる。でも私たちプロ選手はサッカーに取り組む責任があるのだから、多少やりたいことを我慢してもサッカーに専念する。その精神がサクリフィシオ(犠牲心)なんだ」
だが、日本人選手はこの言葉を「酷暑の中で練習すること」と誤解している、とフォルランは言う。
フォルラン「サクリフィシオとは、つらい状態に耐えたり我慢したりすることとは違う。サッカーは理論で割り切るんじゃなく、”感じる”ことが大切なんだ。選手とは誰かに創られるものでもないし、生まれるものでもない。たとえ才能があっても、自分自身で一生懸命練習をしなければ、優秀なプロ選手にはなれない。プレーすることに幸せとパッションを感じつづけている必要があるんだ。そのための努力がサクリフィシオだと思っている」
フォルラン「だけどJリーグを見ていると、サッカーを仕事のように感じている選手が多い印象を受ける。確かに私たちプロはサッカーでお金をもらっているけど、会社に行ってタイムカードを押し、8時間働いてお疲れさま、という職業とはまったく違う。天職という以上の感覚を抱き、つねにパッションをもって取り組むべきものだと思う」
サッカー一流国の遺伝子を受け継ぐフォルラン。
日本代表の姿は、彼にどう見えているのか?
フォルラン「そうだね…、私に言えるのは、日本がワールドカップに優勝するのは今は難しいということ。もちろん夢をもつことは自由だ。でも、自分の限界も知るべきだと思う。たとえば私が月へ行きたいと言うことはできるけど、果たして実際に月にいける可能性はどれくらいあるだろうか。夢を見ることと、実際にその夢を実現することは別なんだ。日本サッカーは、まずは基礎づくりから始める必要がある。そして経験を積み、目標を定めて達成していく。エスカレーターに乗っても、一気に10階までは到達できないだろう? でも1階ずつ上がっていけば、いつかは10階にたどりつくことができる」
フォルラン「人口は日本の約4分の1のウルグアイだけど、代表チームにはルイス(・スアレス)やディエゴ(・ゴディン)など、世界の舞台で活躍するエリート選手がそろっている。そんなウルグアイでも、W杯の決勝まで進むのはとても大変なこと。サッカーで夢をもつのはいいことだけど、同時に現実主義者にもならなければいけない」
フォルラン「1シーズン、Jリーグで一緒にプレーしてわかったのは、日本の選手はうまいということ。みんなとても上手だよ。だから彼らに何か言葉で伝えるのではなく、私は試合でベストを尽くそうとだけ考えている。それを見て必要なことがあれば、彼ら自身が取り入れればいいし、同じように私も、セレッソのチームメイトを見て何か学んでいくと思う。何かを学ぶというのは選手次第だからね」
フォルラン「昨年はもちろん(J1で)優勝したいと思っていた。でも結果は2部降格だった。思い描いていた現実とは異なるけど、ベストを尽くして前進していくのみだよ。人生とはさまざまなことが起こるものだから」
今季のフォルランは、順調に得点を重ねている。4月1日のジェフ戦でのゴールは、フォルラン自身も「ゴラッソ(素晴らしいゴール)」と呼ぶ、美しいものだった。
試合後、記者にこんな質問を受けた。
「後ろからのパスで、ゴールの位置もよくわかっていなかったのでは?」
するとフォルラン、ムッとした表情でこう答えた。
フォルラン「私のサッカーキャリアを通じて、ゴールの位置を頭に入れずにプレーしたことなど一度もない」
(了)
ソース:Number(ナンバー)876号 イチロー主義 (Sports Graphic Number(スポーツ・グラフィック ナンバー))
ディエゴ・フォルラン「日本サッカーに伝えたいこと」
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