2014年6月6日金曜日
本田圭佑の「運任せ」 [サッカー]
「W杯優勝」
本田圭佑(ほんだ・けいすけ)は、ずっとそれを言い続けてきた。
「ぶっちゃけ、オレは皆んながどう思っているのか分からへん。本気で優勝を目指しているのか。いや、優勝は無理やと思っているのか。みんなの考えを聞かせてほしい」
本田はミーティングでいきなりそう仕掛けた。
それは昨年11月、日本代表のヨーロッパ遠征、オランダ戦直前のことだった。
各自の意見はポロポロとでてきた。
「優勝は見えない…」
「優勝と言っている人がおるから、それに付いてきた」
そのときに集まっていた選手は、前回の南アフリカW杯を経験した選手らと、プラス香川慎司。みんなで8〜9人だった。
本田は振り返る。「3つくらいに意見が分かれたんです。優勝は無理パターン、人に付いていくパターン、優勝を信じているパターン」
本田は皆んなに言った。
「大きな目標を設定したことがないのなら、騙されたと思ってやってくれ」
そして本田は、自分自身の目標設定のやり方を話しはじめた。
「オレも、はじめから優勝が見えていたわけやない。世界一を見たいから、見る作業を繰り返して、まったく見えなかったものが見えるようになってくるもんや。そういう作業、自問自答みたいな時間を設けない限り、いつまでたっても見えてこない」
本田は振り返る。
「あの時期に、あの話ができたというのは、すごく大きかったです。みんなもその場では『圭佑の話を聞いて、本当に優勝を目指さなアカンねんなと思った』というようなことを言ってくれたし、理解はしてくれたと思う。ある程度はね」
その直後のオランダ戦、日本は2-2で引き分けた。
次のベルギー戦には、3-2で勝利。
——優勝候補にあがる強豪らとの連戦を1勝1分けで終えた。意識改革と確かな手応え。ここまでは、ある意味順調だった(Number誌)。
誰も信じなかった、はるか遠くにある夢。
「W杯優勝」
それを実現する大舞台は、刻一刻と近づいてきている。
「優勝」というのは最高のシナリオだ。
本田は言う、「自分が点を決めて、得点王になってW杯で優勝する。そんな絵はすごいし、理想ですね」
だが、本田はそれと同時に「最悪のシナリオ」も想定にいれている。
「誰かが怪我する可能性だってゼロではない。でも、オレはそこまで織り込み済みでイメージしてますけどね。たとえば、オレが開幕前に前十字靭帯を切って、それでもオレはW杯に帯同して優勝させるイメージをもっています」
靭帯断裂ともなれば、選手生命を左右しかねない大怪我。もし、チームの大黒柱である本田が大会直前に重傷を負ったとして、どうやって日本を優勝にまで導くのか。
「仮に試合に出ていなくても、それでも試合に勝たせる能力がオレにあるのであれば、発揮していく。そういうことなんじゃないかな、オレの力は」
「オレに出来て、メッシやロナウドに出来ないことをやりたい。点も取ってないのに、オレが新聞で一面になったりすることだってある。そういうことだと思うんです、オレの力は」
かつて本田は、日本代表のなかで異端児として敬遠されていた。
たとえば2009年の秋、日本代表のオランダ遠征、当時の中心選手だった中村俊輔とFK(フリーキック)を巡ってちょっとした対立も起きた。
本田は当時を振り返る。「W杯の前にオレが合流して、オレの方がみんなより下手。うまい選手は他にたくさんいたよ。でも、勝てる雰囲気じゃなかった。それなのに、オッケー感があった。オレは全然オッケーじゃない、と思いましたよね」
——確かに本田は、代表で浮いていた。ポジションを奪うこともできず、代表に居場所がない。そんな時期が続いた(Number誌)。
フタを開けてみれば、前回のW杯、本田は「予期せぬパフォーマー」となった。
2ゴールを挙げ、日本代表のベスト16入りを牽引することになったのだ。
そして今回、ブラジル大会
意外にも本田は、「予期せぬパフォーマー」の出現を期待している。
「結局、僕以上のパフォーマーが現れないとね。僕は、カメルーンやデンマーク相手にやったパフォーマーですよ。でも、スペインやブラジル相手にあのパフォーマーが生まれてこないことには、優勝はできないわけです」
その予期せぬパフォーマーは、自分ではいけない、と本田は言う。
「自分を理想論にかかげてはいけない、と思っているんです。いわゆる『コイツが…』っていう奴がやらんとダメなんです。それが起こる雰囲気をつくっていくのが、オレの役割やと思ってます。普段から強引なまでに雰囲気づくりをしているオレの」
「普段はあんまりこういう話をしてこなかったけど、結局、オレの自信っていうのはこの程度のレベルのことで、わりと運任せなところもある。ただ実際、いままでこれで生き残ってきているところもあるし、運や奇跡を呼び込んできたおかげで、いまの立場にいるからね」
「逆に奇跡だけを信じて、その土台がなくなると、グループリーグ突破も難しくなる。当たり前のことをまず100%抜かりなくやれば8強まではいける。そこからは奇跡を呼び込む習慣を、普段の生活からみんなでやっていきましょう、っていうことです。普段からいい加減にやっていたら、その感覚は来ない。奇跡を呼ぶ感覚はね」
「神様はみてる。意外とね」
(了)
ソース:Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2014年 7/17号 [雑誌]
本田圭佑「オレに出来て、メッシに出来ないこと」
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