2013年9月24日火曜日
イタリア守備の創始者「アリゴ・サッキ」、日本の守備を語る [サッカー]
なぜ、サッカー日本代表のプレスに南米勢はかからないのか?
”日本には国際舞台で明らかに苦手な相手がいる。ブラジルを筆頭とした「南米勢」だ。過去のW杯では一度も南米勢に勝ったことがない(Number誌)”
欧米勢には激しいプレスからボールを奪える日本。だがなぜ、南米の選手たちからはボールを奪えないのか?
この問いに答えるのは、「アリゴ・サッキ(Arrigo Sacchi)」。1989年から2年連続でACミラン(イタリア)を欧州王者に導いた名監督。
”ゾーン・プレスと呼ばれる新しい守備法で世界中に衝撃を与えた。近代サッカーの守備理論は、ほぼすべてサッキが考え出したと言っても過言ではない(Number誌)”
そのサッキは言う。「南米勢からボールを奪えないのは日本に限ったことではない。南米のチーム相手にプレスがかかりづらいのは、サッカー界の常識だ」
その理由は極めてシンプル。
「欧州のチームはポゼッションに行き詰まると、打開策としてロングボールを蹴ることが多い。それに対して、南米勢はそういう苦し紛れの選択をあまりしない。ポゼッションに行き詰まると、一度DF(ディフェンス)ラインにボールを下げて、もう一度組み立てようとする。彼らはビルドアップの面倒さを我慢できるというDNAを持っている。プレスがかかりづらいのは当然のことだ」
イタリアの誇る守備「ゾーンプレスの創始者」、アリゴ・サッキ。
彼のイタリア流ゾーンプレスを継承する一人は、同じイタリア人「アルベルト・ザッケローニ」。言わずと知れた、現・日本代表の監督だ(通称ザック)。
ザックもまた、かつてACミランを率いてイタリア・リーグ(セリエA)で優勝を勝ち取った経歴がある(1999)。プロ選手の経験がなかった無名監督のザックだったが、この優勝を皮切りにインテル、ユベントスなどビッグクラブの監督を歴任することになる。
かつてザックは、こう語ったことがある。「サッキの守備法から多くのことを学んだ。彼は私の友人で、イタリアの自宅も10kmしか離れていない(『Number誌』2010年12月号)」
日本代表監督として3年が経つザック。
イタリア流のゾーンプレスを日本代表に叩き込むために、力強い言葉をピッチに響かせる。
「『ライン!』と叫んだら、相手FW(フォワード)から1m後ろにDF(ディフェンス)ラインをつくれ!」
その細かな練習に、代表選手・本田圭佑はフフッと口元を緩ませる。
「守備の意識を本能的にさせようと、監督が企んでいるのかなと。悪く言えば、くどいくらいにしているので、イタリアってこんなんなのかなぁと想像しながらやってます」
「錠前(カテナチオ)」とも称されるイタリアの硬い守備。それには「ディアゴナーレ」と呼ばれる基本中の基本がある。
「ディアゴナーレ」とは、DF(ディフェンダー)の目の前にボールが来たら、一人がアプローチし、すぐ横にいる2人が「斜め後ろ」に下がってカバーするという動き。
サッキは説明する。「攻から守に転じた際、DF(ディフェンダー)は最短距離を走る必要がある。ならば、タッチラインと平行に走るなどという愚行はあり得ないわけで、”斜め(ディアゴナーレ)”に走るほうが効率的に決まっている」
「反復に次ぐ反復。これ以外に制度を向上させる術はない」と、サッキは強く言う。
かつて日本代表を率いた監督・トルシェは「日本にはまだ真の守備文化がない」と指摘したことがある。
”これまで日本はW杯のたびにDF(ディフェンス)ラインの高さを巡って論争が起きてきた。2006年W杯では選手間で話し合ったが結論が出ず、初戦で守備が崩壊。2010年W杯(南アフリカ)では岡田武史監督は高い位置からのプレスを諦め、自陣に引いて守る古典的なやり方を選択した(Number誌)”
現・監督であるザックは、「状況に応じてラインを上下させる近代的なDF(ディフェンス)ライン」に挑戦している。
その戦術に対して、サッキは理解を示す。「当たり前の話だが、単にラインを高く保てばいいというものではない。戦況の見極めが重要だ。そもそもDFラインを高く保つには、非常に高い集中力が全員に求められる。90分間維持するのはほぼ不可能。それゆえにラインの上げ下げは柔軟でなければならない」
だが、日本代表は先のコンフェデ杯で大量失点、3戦全敗。守備崩壊とメディアに叩かれ、そのやり方が不安視されるようになっている。
サッキはこう語る。「日本代表のDF(ディフェンダー)たちが高い守備ラインに不安を覚えるのは当然だ。ただ、ミラン時代、私は試合前にこう言って選手たちのモチベーションを刺激していた。『裏を取られることを恐れてラインを下げてしまうようでは、何も体得できない』と。失敗なくして成長は望めない」
サッキは続ける。「誤解を恐れずに言えば、勝つために慎重になるより、失敗を重ねることでスキルを磨くほうがはるかに有益だ。そもそも単に負けないサッカーなら誰にだってできる。だが、そんなメンタリティ(心構え)では何も生み出せない」
ブラジルで行われたコンフェデ杯、日本はイタリア代表とも戦戈を交え、3対4で敗北した。イタリアでも生中継されたこの試合、サッキはどう見たのか?
「あの日の日本は素晴らしいサッカーを見せた。2対0になってからの戦い方には賛否両論あるだろうが、私はアルベルト(ザック)の考え方を支持する。勇敢なサッカーは感動的だった。守備陣にはいくつかの改める点があるが、先ほど述べた通り、失敗から学べばいい。思いっ切りチャレンジすればいい」
元代表の中田英寿は、こんな話をしている。
「2〜3年前まで、最先端のサッカーをしていたのは間違いなくバルセロナ(スペイン)だった。そして、その勢いがそのままW杯南アフリカ大会でのスペイン代表の優勝につながったと言っていいだろう。しかし、昨季の欧州CL(チャンピオンズ・リーグ)の決勝がバイエルン(ドイツ)対ドルトムント(ドイツ)だったように、時代はドイツに移りつつある。もし今回、バイエルン(ドイツ)が連覇するようなことがあれば、来年のW杯でドイツが優勝候補になるだろうし、今後しばらくはサッカー界はドイツを中心に回ることになるだろう」
サッキが注目するのは、ドイツのチーム「ドルトムント」。かつて香川真司が才能を開花させたチームである。
「この3年間の中で、私を最も魅了したのはドルトムントだ。クロップ監督は無名の選手たちを率いて、魅力的なサッカーを見せ続けている。彼の指導によって、選手たちが超一流へと成長している」
最後にサッキは、こう言った。
「最後に述べておきたいのは、日本はドイツ勢から学ぶべき点が非常に多いということだ。彼らは一步どころか数歩前を行っている。大切なことは、リスクと失敗を決して恐れないこと。世界のサッカーは常に進化しており、学ぶ姿勢を失えば、その流れから取り残されてしまうだろう」
(了)
関連記事:
進化するイタリア・サッカー。守備から攻撃へ
なぜ強くなった? ドイツのサッカー事情
ドイツ・サッカーと、日本
香川真司の不遇に涙する、古巣のクロップ監督 [サッカー]
ドルトムント、クロップ監督の「Gプレス」。時には柔軟に…
ソース:Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2013年 10/3号 [雑誌]
「アリゴ・サッキが語る ザッケローニにまつわる7つの謎」
0 件のコメント:
コメントを投稿