2013年8月23日金曜日
「最強 × 最強」、グアルディオラ(ペップ)とバイエルン [サッカー]
「あなたは『世界一の監督』だと思うか?」
会見の席でそう質問された「グアルディオラ」監督。彼は、スペインの「バルセロナ」でタイトルを総ナメにし、一時代を築いた名将である(リーガ3連覇、2度のチャンピオンズリーグ制覇)。
グアルディオラ、通称「ペップ」はこう答えた。
「監督自身が『私は世界一の監督だ』というのは間違っていると思う。それを決められる唯一の存在は『選手』だ。監督にとって大切なのは、いかに選手に助けられるかだ」
バルセロナを去って一年の休養をへて、ペップは今季より、ドイツ最強チームである「バイエルン」を率いることとなった。
Number誌「ドイツ・サッカーは闘争心にあふれ、気持ちを全面に押し出す。同時にドイツ人はとても知的だ。合理性とディシプリン(規律)を重んじる。彼らは伝統に回帰することの意味をよく理解している。全力で戦い、惜しみなく走る。走って走って走り抜くことで、相手に差をつける。プリミティブ(原始的)ではあるが、これこそサッカーの原点である」
そうしたドイツ・サッカーを体現するナショナル・ブランドが「バイエルン」というチーム。昨季はバルセロナを破りCL(チャンピオンズ・リーグ)を制覇。記録ずくめでドイツ史上初の3冠を達成した(国内リーグ、ドイツ・カップ、CL)。
「だからこそバイエルンは、勇退したユップ・ハインケスに代わり、グアルディオラ(ペップ)を新監督に招聘した(Number誌)」
スペイン生まれのペップは、その完璧主義からドイツ語を猛勉強。バイエルンにおける会見はすべてドイツ語で行われ、笑いまで引き起こす。
練習場でもペップのドイツ語が響き渡る。
「リニエ(ラインを一直線にしろ)!」
「ツーザーメン(一緒に連動して)!」
「ラウス(ラインを上げろ)!」
練習中はしばしばメニューに参加し、選手と共にボールを追いかける。
Number誌「ペップの真骨頂は理論に溺れてしまわないことだ。無味乾燥になりかねない練習を、燃えるような情熱で料理する。両手を派手に使ったジェスチャーで要求を伝え、練習後には一人ひとりに話しかけてアドバイスする。ユースの選手に対しても、まったく熱量が変わらない」
ペップいわく、「選手とは同じ目線に立って話したいからね。疑問があれば、その場で伝える。私は隠し事をしないストレートなタイプなんだ」
時にじゃれるように後ろから選手を蹴ったり、子供のように抱きついたり。
Number誌「熱くて、知識があって、教え方がうまい。学校の先生だったら、瞬く間に人気者になるだろう」
選手たちには隠し事をしないというペップだが、バルセロナ時代はほぼ全ての練習を非公開にしていた。「戦術練習を見せたくないから」という秘密主義からだった。
バイエルンに来てからは、練習をやや公開しているものの、大事なメニューの日には堅く門を閉ざしてしまう。それでも記者らは練習場の裏にある古城(273m)から、バイエルンの非公開練習を双眼鏡で覗きこむ。
すると、「見たこともないような練習」が…。
ゴール前には、4体の人形が4バックの位置に並べられている。
それら人形の1mほど後ろには小さなコーンが4つ。そのコーンが攻撃者のスタート・ポジション。つまり、オフサイド・ポジションからシュート練習がはじめられていた。
Number誌「わざとオフサイド・ポジションに立っておいて、そこからUの字を描くように動き、相手を惑わす。そういえばメッシ(バルセロナ)は、よくこういうアクションを起こしていた気がする」
クロスの練習も独特だ。
Number誌「一般的にクロスと言えば、サイドから弧を描く軌道を思い描く。だが、ペップ流は違う。ボールは浮かさず、相手のセンターバックとサイドバックの間にグラウンダーのスルーパスを通そうとする」
ゴール前の崩しに関しては、とにかく指示が細かったという。
ペップといえば攻撃的なイメージが強いが、その合宿においてはかなりの時間が守備練習に費やされていた。
ペップいわく、「私にとって、攻撃と守備は一つのもの。切り離すことはできない。いい攻撃がいい守備をもたらし、いい守備がいい攻撃をもたらすんだ」
選手の一人、クロースはこう言う。「ボールを奪われた瞬間、素早く『中央を閉めること』をペップは求めている。そうすればゲームをコントロールできるからね」
食事にもこだわるペップは、練習後にバナナ・シェイクを飲むことを義務づけたという。
そして迎えた開幕戦(vs ボルシアMG)。
Number誌「先制点は、まさに合宿で練習していた形の再現だった。前にボールを運ぶと、リベリーとロッベンがドリブルで相手の組織を叩きのめす(まるでメッシが2人いるかのように)。リベリーが正確なパスを送り込むと、ロッベンのゴールが決まった」
ところがボールを失った途端、「学生チーム顔負けのナイーブさを見せてしまった」。相手のカウンターをケアできず、センターバックのダンテが「中央を閉められなかった」と反省した失点だった。
試合は「3対1」でバイエルンが勝利したものの、途中、ペップは大声を出し続け、修正も余儀なくされた。
Number誌「ペップ率いるバイエルンを開幕戦で舞っていたのは、とてもCL(チャンピオンズリーグ)王者とは思えない支配と混乱の目まぐるしい交錯だった。CL王者が多重人格になってしまったような試合だった」
しかし、このバランス感覚の欠如にこそ、大きな可能性が潜んでいるのかもしれない。
Number誌「無難にやろうと思えば、ペップでなくていいのだ。バルセロナ以上のチームを作るために、伝説のカタラン人は異国にやって来たのだから」
「ペップ × バイエルン」
それが爆発的な化学反応を起こすのは、これからだろう。
「長編小説の1ページ目が、ついにめくられた(Number誌)」
(了)
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ソース:Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2013年 9/5号 [雑誌]
「ペップの謎を解き明かせ」
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